アウシュビッツを経てもなお、最後のセリフを言える強さに。『パールとスターシャ』(アフィニティ・コナー)

 

きな臭いというか人への恨みというか憎悪が匿名・実名の両方で可視化されて怖い今の世界がこの物語の場所をつくることに向かっていないか心配になる。少し前にジョン・ムーアの『華氏119』を観て怖くなったんだけど、それは別の話。

アメリカ社会はどこへ向かい、日本もどこへ向かうのか。「華氏119」

原発事故によって世界に広く知られるようになった場所としてのフクシマやチェルノブイリ、世界で唯一、原子爆弾を落とされたヒロシマやナガサキなどのように人類の負の記憶として刻まれている場所はある。それぞれの場所で起こった出来事に大小をつけるのは難しいが、負の遺産として世界で最も広く挙げられるのがユダヤ人を大量虐殺する工場として動き続けたアウシュビッツではないだろうか。ただ、虐殺するだけでなくその人数と残虐な殺し方によって多くの人が知っている。

アウシュビッツという人を人とは思わないことが行われた場所に生きた12歳の双子の女の子それぞれの道のりが描かれる。ユダヤ人の家に生まれた物知りでしっかりものの姉のパールとおてんばでどこか抜けている妹のスターシャの2人はユダヤ人弾圧の中で父親が失踪し、大学教授の祖父とお母さんと隠れていた。でも、隠れ通すことができずにアウシュビッツに連れて行かれる。そこに待っていたのは「おじさん先生」と呼ばれるヨーゼフ・メンゲレという悪名高き医者が管理する「動物園」と呼ばれる場所。そこは双子や三つ子、変わった身体的な特徴を持つ子どもたちを集められ、人体実験をするとんでもない場所だった。

ヨーゼフ・メンゲレ – Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%AC

苛烈な場所に置かれたパールとスターシャは12歳の少女として変わっていく。その変化は双子で仲良しで一緒だと思ってきた2人がそれぞれ異なる少女として変わっていくことからも異常な場所であったことを感じさせる。フィクションでそれぞれの少女の視点で語られるのがアウシュビッツにいた双子の少女に実際に起ったようにも思えるのは著者の取材や調査のたまものなんだろう。

友達、ケンカだけじゃなくて思春期に入りかけの12歳の女の子らしい初恋をもう味わえないかもしれないということから不十分で障害を持ちながらも味わおうとする。そんな健気に生きる姿にこの場所をもう一度作ってはいけないと思う。そのうえでラストシーンの言葉に胸を熱くさせる。その言葉はぜひ、読んで確かめてほしい。こうありたいと思える言葉。そう思ってはいけない世界になっている気がするからこそ。

【手に入れたきっかけ】

「本が好き!」というWEBサービスの献本キャンペーン!

【オススメ度】

★★★★☆

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小檜山 歩

コンサルタント日系総合コンサルティングファーム
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。
小檜山 歩
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。