高梨将弘選手が立てない、サードロープ、すべてのロープが外される中でそれぞれがやるべきことをやった。
熱気に満ちた後楽園ホール
3.20DDT後楽園ビッグマッチは最後の最後に事件が起こってしまった。事件なのか、事故なのか他の言い方がいいのかはわからない。ただ、普通ではない事態が起こった。
この日の後楽園ホールは熱気に満ちていた。恒例のDDTの周年興行であり、ゲストも参戦する大会で28周年を祝う時間に集まった観客は、公式発表はされていないものの超満員と言っていいぐらいの空席の少なさだった。
樋口和貞と勝俣瞬馬という2人の欠場選手が第1試合から復帰戦を戦うということで盛り上がった。セミファイナルでの鈴木みのると上野勇希の試合は会場を巻き込んでバチバチのしばき合いになり、すごいものを見たという気持ちが弾けたのか試合後にどよめきが起こった。

メインイベントの熱戦から違和感のある時間
迎えたメインイベント。出会ってから6年の歴史を持つクリス・ブルックスと高梨将弘の試合。CDKというタッグチームを組んでいる2人が大事な大会でメインイベントで団体の頂点のベルトを賭けて戦うカードに会場の期待感は高まっていた。
試合は期待に応えるように場外戦もあり、テーブル、イスを使ったハードコアな攻防もあり、イスに座って語り合うようなエルボー合戦もありの見応えがある中で雪崩式の技からクリス・ブルックスが必殺技のプレイングマンティスボムで勝利した。
今思うと、唐突な決着だった気もするが試合としておかしなところはなかったように思う。だが、すぐに様子がおかしいことに会場が気づく。
いつもなら少し確認して下がるリングドクターがリングの高梨将弘選手から離れない。違和感がある時間が流れて、クリス・ブルックスが勝ったことをマイクで話すけど少し言葉が出てこない。選手が高梨選手の周りに集まってきてタンカに動かそうとするタイミングもあったが止められてサードロープが外される。
そこから緊急搬送を待つ時間が訪れて救急隊がやってきて高梨選手が搬送されるまでの時間が訪れる。緊急搬送を終え、エンドロールが流れて髙木三四郎が状況を話した上で大会が終わる。メインの3カウントから20分から30分が経っていた。その間にDDTという団体、それぞれのプロレスラーができることを精一杯やっていた。
それぞれがリング上でやったこと
クリス・ブルックスは盟友が立てない中でマイクを握り、次の挑戦者である高鹿佑也とやりとりをする。「それどころじゃないし、お前には興味はない」と言い放つ言葉には重みがあった。
高鹿佑也はそんな中でもクリス・ブルックスに伝えたいことを話した。ジェネリック遠藤ではないこと、勝ちにいくことを伝えた。リング上ではなくリングサイドという思っていた場所と違うところでも自分の言葉で話していた。
アントーニオ本多はクリス・ブルックスに託されていつもよりもまっすぐに「1、2、3、4!」で締めていた気がする。
男色ディーノは放送席に座って実況、解説者たちと中継を続けた。あとでレッスルユニバースの配信を見たら、「これもプロレスなので目を離さず見てほしい」と話していた。
他の選手たちも導線を確保したり、リングのロープを外したり、それぞれができることをやっていた。大会終了後の撮影会もファンと率直に話しながらやりきったらしい。
スタッフもあるべきタイミングで高梨選手の入場曲を流し、準備されていたエンディングムービーを流した。INTO THE LIGHTを聴くと少し心が落ち着いた。音楽ってすごいと思えた。
髙木三四郎は救急隊が高梨選手を運んだ後に観客が願っていた言葉を発した。頼むから何か話してくれと思っていた自分がいた。言えることが少ない中でも言葉を選んで団体の長として観客に伝えるべきことを伝えていた。
そして、高梨将弘は救急隊に運ばれている中の高梨コールに動く手を上げて応えた。
DDTファン、プロレスファンの一人として感謝
完璧ではなかったかもしれないけど少なくとも会場に居たDDTファンの1人として、どこに向かえばいいのかわからない心を保つことができた時間だった。
The Show Must Go On
怪我をした高梨選手がクリス選手を呼んで伝えたらしい。現場で見た1人としてそんなことは軽々しく言えないけど、選手たちが戦いを続けるなら見続けたい。プロレスラーは強いし、プロレスにしかない魅力があるから。そんなことを思った時間だった。
改めて高梨将弘選手の怪我が大事に至らないことを願い、あの場でできることをやっていただいたDDTの全選手・全スタッフに感謝します。
皆さまのおかげで私は普段通りの生活を続けることができて、プロレスを楽しみ続けることができそうです。