渡辺未詩とのシングルマッチ、でじもんとのトリオマッチ、そして伊藤麻希とのシングルマッチ。いずれの試合も、観る者に未来への期待を抱かせるものだった。今回は、そんなアイドル兼プロレスラー、高見汐珠を語ろう。
アップアップガールズの3期生として白色を纏う
「歌って、踊って、闘える」最強のアイドルを目指すアイドルグループのキャッチフレーズのユニットである「アップアップガールズ(プロレス)」(以下、アプガプロレス)グループが存在する。しばらくメンバーの追加がなかったが、この5年の間に初期メンバーが抜け、新たなメンバーが加入した。2期の追加メンバーである鈴木志乃に続き、3期メンバーとして加わったのが高見汐珠である。

他のメンバーが20代後半に差し掛かる中、16歳で加入した彼女は、17歳でプロレスデビューを果たし、現在18歳となった。
メンバーカラーは白色。加入時は高校生であり、その純粋な佇まいと果敢に相手に立ち向かう姿に、白は実に良く似合っていた。

18歳、150cmの小さな体でリングに上がる
プロレスの世界では、体格が大きいことが有利に働く場面が多い。リング上での存在感、技の迫力、そして説得力。いずれも、体格が大きければ増すように思われる。
アプガプロレスの先輩であり、東京女子プロレスの頂点であるプリンセス・オブ・プリンセス王座を戴冠した渡辺未詩も、身長は159cmと決して小柄ではない。そして、鍛え抜かれた筋肉が、彼女の戦いを圧倒的なものにしている。

一方、高見汐珠は150cmという小柄な体でリングに立つ。対戦相手の中で最も小さいことがほとんどで、体格差からすぐに負けてしまうのではないかと感じることも少なくなかった。しかし、その小さな体から繰り出されるパワーは日増しに強さを増し、観る者に大いなる可能性を感じさせる試合を展開する。
可愛らしい雰囲気と親しみやすい性格から、チョコプロレスリングの駿河メイとのタッグ「りんごアイス(仮)」が話題になったこともあったが、私が更に惹かれたのは、今年の東京女子プロレス1.4後楽園ホール大会での渡辺未詩とのシングルマッチであった。

尊敬し、憧れる先輩との一騎打ち。入場時から、いつもの高見汐珠とは異なる、決意を秘めた表情が印象的だった。試合前から涙ぐんでいるようにも見えた。しかし、試合が始まると、吹っ切れたように思い切りの良い戦いを見せた。また、4.11新宿FACE大会での前タッグチャンピオンであるでいじーもんきー(鈴芽、遠藤有栖)とのトリオマッチでは、高見汐珠が追いかける先輩はこの2人なのではないかと感じさせる試合展開で、3人の同時攻撃は強く印象に残った。


生観戦するたびに興味が深まっていく高見汐珠に、先日観戦した5.17品川クラブeX大会での伊藤麻希とのシングルマッチで、私は更に強く惹きつけられた。
世界で戦う伊藤麻希とのシングルはこの日のベストバウト
伊藤麻希は、アイドルから紆余曲折を経てプロレスラーとなり、東京女子プロレスのシングルトーナメントで優勝した経験を持つ選手だ。今や東京女子プロレスに留まらず、世界を舞台に戦う選手となり、海外での試合がない時に東京女子プロレスのリングに上がっている。
そんな伊藤麻希と高見汐珠のシングルマッチが第3試合に組まれていた。大会前から期待していたが、高見汐珠の仕掛けがその期待を遥かに超えていった。
いつもの試合に向かう表情とは異なり、少し怖がっているようにも見える。しかし、伊藤麻希の入場を待ちながらエプロンサイドでストレッチをする表情は、何かを企んでいるようにも見え、何が起こるのか否応なしに期待が高まった。

ゴング前の握手に応じない伊藤麻希に対し、ゴングが鳴ると伊藤は堂々とリング中央に歩みを進める。しかし、高見汐珠は距離を置き、勢いをつけてロックアップで組み合う。力比べでは伊藤が優位に立つが、高見汐珠も上手くいなしてコーナーに伊藤をホイップし、バックエルボーでダメージを与える。そしてリング中央に戻って追撃を仕掛けるかと思いきや、予想外の行動に出た。
リング中央で走り回り、「お待たせしましたー!」と言うと、伊藤のコーナーに登って「世界一かわいいのはー?」と問いかける。伊藤がコーナーから抜け出してその先は防がれたが、伊藤の見せ場である世界一かわいいナックルを奪ってやろうとしたのだ。
もちろん伊藤は黙っていない。「お前、何やろうとした?」と問いかけると、高見汐珠は「世界一かわいいのは汐珠」と返す。すると伊藤は「この世の中にはやっていいこととやってはいけないことがある」と話し、「お前は石川一かわいいだ」と褒めているのか貶しているのかわからない返しをする。それを聞いた高見汐珠は泣き出してしまった。
伊藤が焦って様子を伺うと、もちろん嘘泣きで、高見汐珠の反撃を喰らう。この嘘泣きも伊藤のオマージュであり、技の攻防ではなくプロレスのやり取りで伊藤に仕掛けたのが印象的な序盤戦だった。
そこから、伊藤がボディスラム、馬乗りナックル、ツバ吐きで逆襲し、ロープに手をかけながら高見汐珠を踏みつけて観客のヘイトを買う。

歴然とした体力の差を見せつける伊藤が観客にアピールする中、高見汐珠がエルボーで反撃する。しかし、伊藤は更に強いエルボーで返し、圧を高める。頭突きは読んだ高見汐珠が手で止めて耐え、その進化を感じさせた。

高見汐珠が串刺しドロップキックから正調式のドロップキックを放ってダメージを与えてからコアラクラッチを狙うも伊藤が後ろに叩きつける。高見汐珠が初めて自力勝利を掴んだ武器であるコアラクラッチでしつこく仕掛けていく。
伊藤に振り解かれても高見汐珠が腕を掴んで振り子式のドロップキックを伊藤に叩きつけた上でもう一度絡みついてコアラクラッチを狙い、伊藤は振り払うと高見汐珠もしつこく喰らいついて締め上げ、振り落とされても丸め込みで勝利を勝ち取りにいく。

高見汐珠が叫びながら伊藤麻希にエルボーを何発も叩き込んで膝をつかせるも、コーナーステップしてのミサイルキックは伊藤が避けて膝蹴りからエレベイテッドDDTで叩きつける。伊藤の反撃で高見汐珠のエルボーに力がなくなる中で伊藤麻希がキックを放つと、高見汐珠のエルボーに力が戻る。なんとか最後の力を振り絞るも伊藤がヘッドパット、抱え上げてから走りながら叩きつけてからの伊藤デラックスでギブアップを奪ったのが試合の決着で10分57秒の決着となった。
勝利した伊藤が高見汐珠に何か話しかけた上で握手を求めるも、高見汐珠は強くビンタを放つ。そして踏みつけられ、リングの下に転がり落ちて退場していく。その小さな体から、これほどの活力が湧き出るのかと驚かされた。出し切る凄さを感じる試合で、私にとってこの大会のベストバウトであった。

もちろん、そんな戦いを引き出したのは、伊藤麻希の技量があってこそだった。伊藤だからが相手だったからこそオマージュできる動きがあり、感情を引き出す戦いができると感じる試合でもあった。
2025年はステップを上がっていく1年なのかも
渡辺未詩との試合、でいじーもんきーとのトリオマッチ。それらに加え、2025年は既に、高見汐珠にとって大きな飛躍の年となっている。
4.19に鈴芽の持つインターナショナルプリンセス王座への挑戦権を懸けた変則トーナメントが開催された。高見汐珠はコアラクラッチで七瀬千花からギブアップ勝ちを奪い、自力での初勝利を飾った。その日のメインイベントでは、シングルマッチを戦い抜いている。
この日、東京女子プロレスはラスベガス大会も開催しており、二手に分かれて興行があった。オープニングでは、高見汐珠が一人で持ち歌を披露するなど、アイドルとプロレスラーの両面で八面六臂の活躍を見せ、大いに注目を集めた
自力での勝利、東京女子プロレスの中心選手たちとのシングルマッチでの進化。それら全てが高見汐珠への期待を高める。長く見守っていれば、現プリンセス・オブ・プリンセス王者の瑞希や、インターナショナル・プリンセス王者の鈴芽のような、堂々たる戦いを見せる選手になるだろう。そんな期待を抱いてしまう。


高見汐珠が東京女子プロレスのベルトを掲げる日が、未来に訪れる。そう確信させる、この日のベストバウトであった。

アップアップガールズ(プロレス) – Wikipedia
TJPW SPRING TOUR 2025 IN SHINAGAWA vol.1 | 東京女子プロレス公式サイト
https://www.tjpw.jp/results/6827f7d0b6aee500023105bc
神田明神文化交流館 presents そんなこんなの日本です | 東京女子プロレス公式サイト