セックス以外の何かを大切にしたくなる1995年から2011年とその先への物語 『情人』(花房 観音)【本】

 

2011年3月11日にあなたはなにをしていましたか?

日本人の多くの記憶に残ったあの日とそれより前の震災の代名詞だった1995年1月17日の2つの日をつなぐセックスと愛と家族を問う物語。

どこにでもある父と母と兄と自分の4人家族で神戸に住んでいる女子高生の笑子の身に同じ日に関西の多くの人が体験した地震が起こる。

ただ、その地震はもう1つの大きな衝撃を家族に与えることになった。

祖母のところに行っていたはずの母親が祖母のところには行っておらず、とある親戚の男に背負われて帰ってきてしまった。

その姿から2人の関係は想像がつき、その姿を父と兄と一緒に目にした笑子には衝撃が走った。

遠い親戚でいろんな事情で親族の中でも遠くに置かれてしまっている笑子のひと回り上の男である兵吾が母親を背負っている男。

このできごとからなぜ、母はあの男に惹かれたのかが頭の片隅に残り、いろんな男とセックスし、いろんなことを感じるものの母と兵吾の間のセックスの中にあったものがひっかかり続ける。

そんな笑子が高校生から40才手前になるまでの1995年から2011年、そしてその先の物語。

笑子が3.11に何をしていたのか、そして、その先の今はどうなったのかは是非、読んでほしい。

何回かえげつないセックスの描写がでてくるので、苦手な人は気をつけてほしい。その描写はネットに転がっているよなエロ小説よりもリアリティがあってグロテスクなのがエロさを感じさせる。

地味だけど性欲が強いのか「本当に気持ちいいセックス」を探そうとする笑子から家庭やセックスについて考えさせられ、自分はこうはならないなぁと思えてきたからよかった。

笑子は幸せだと語っているけど、自分は笑子の生き方が幸せだとは思えない。でも、こう思う人がいることも想像できるし、どこかの分かれ道で自分もこうなる可能性があるのかもと思えてくる。

笑子が「セックスだけが確かなもの」と語れば語るほど自分にセックス以外の確かなものがあることを嬉しく思う。

主題とは少し離れるけど、こんなセリフがあった。

弱い人間に強くなれと言うのは酷だ

弱い弟に対する笑子のあたりの強さに対して父親が語った言葉。自分はどちらかといえば多分、強い人間で、こう求めてしまうことも多いから心に留まったんだろう。

セックス以外の何かを大切にしたくなる1995年から2011年とその先への物語。


【手に入れたきっかけ】

「本が好き!」というWebサービスの献本サービス

【オススメ度】

★★★☆☆

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小檜山 歩

コンサルタント日系総合コンサルティングファーム
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。
小檜山 歩
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。