ドキュメンタリーだけではなく、映像を考えながら見る人にとっては必読書と言っても過言ではない。この本を読めば日常的に目にする映像に対する見方が変わることは間違いない。ただし、日常的に目にする映像を何も考えずに見たい人にはオススメできない。なぜなら、映像に対する“一般的な“見方に対して疑問を投げかける本だから。
ドキュメンタリーは客観的でなければならないし、ヤラセは絶対にあってはならない。そんな事を思う人は少なくないのではないか。そんな語り口をオウムを客体にしたドキュメンタリーを撮った森達也は否定する。前書きでドキュメンタリーが捉える現実は虚構なのだとハッキリと断言する。
なぜ、ドキュメンタリーは虚構なのか。虚構を撮り続ける意味はあるのか。現実は虚構と言い切った時に生まれるこんな問いかけに対して映像製作を生業として生きてきた森は反駁する。
自分に人生で最も影響を与えた映画を作った人だからこそ、この人の本はこれまでいろいろ読んできた。ただ、やむを得ない理由でたまたま映画監督になったこの人の本の中で最も熱量を感じたのは間違いないなくこの本と断言できる。A3も死刑も極私的メディア論も自分が見習いたい視点を見せてくれるし、それぞれの問題に対して誠実に向き合っていることを感じさせる。
でも、この本の熱量には及ばない。なぜ、この本にそれだけの熱量が注入されたのか。それは、この本で語られるドキュメンタリーこそが、この人の生業だからなのだろう
ニュースキャスターにニュースの話を聞くよりも、伝え方を聞いた方が面白いように、コンサルタントに得意とする業界の話を聞くよりも、問題解決のやり方を聞いた方が熱く語るように。ドキュメンタリーの作り手に対してはドキュメンタリーで取り上げたテーマについて聞くのではなく、ドキュメンタリーそのものを語ってもらった方が熱くなる。
ドキュメンタリーの歴史から、テレビてやっているドキュメンタリー、広く知られていないけど、見るべきドキュメンタリー作品まで。森達也がドキュメンタリーをどう捉えていて、どんな思いでカメラを相手に向けているのかが語られる。
物事をカメラで捉え、発表しようとする全ての人が心の中に留めておく必要があるポイントが詰まってる。
【引用】
主観を完全に排除して中立な位置に視点を置くことなどそもそも不可能であることも、しっかりと自覚すべきなのだと僕は思う。
曖昧な葛藤や煩悶などにもはや価値など見出だせない。摩擦係数は減衰するばかりだ。
僕らが覚悟すべきは責任をとることではない。責任をとれないことを覚悟すべきなのだ。
【手に入れたきっかけ】
Kindleキャンペーンで好きな人の本が値下げされていたので。
小檜山 歩
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