大田区体育館大会のメインイベントに決定している東京女子プロレスの最高峰のベルトがあるプリンセス・オブ・プリンセス選手権試合の王者である山下実優選手と東京プリンセスカップで名勝負を連発し優勝し挑戦者となった伊藤麻希選手がメインでタッグを組んで愛野ユキ選手と小橋マリカ選手と戦うことになった。

予想していなかった山下実優のフォール負け

この試合を見ていた人でこの結末を予測していた人はどのくらいいたのだろう。何が起こるかわからないのがプロレスとはいえ、山下実優と伊藤麻希が121000000として連携も駆使しながら、快勝して2人でタイトルマッチについて牽制しあいながらも、大会を締めるのだと思っていた。

試合序盤から伊藤の充実っぷりも山下のキレのある蹴りもあったのだけど、それと同じぐらい愛野のパワー殺法の迫力と小橋の負けん気の強い闘いも同じぐらい目立っていた。中盤から山下がローンバトルを強いられることも多くなってきたところから雲行きが怪しくなる。

山下も蹴りで打開した上で「決める」と宣言してフィニッシュに入ろうとするシーンもあったものの、愛野の粘りと小橋のカットで決めさせない。場外からは伊藤の山下に対する「決めろ！」とか「山下！」と叫ぶ声が聞こえてくる。愛野の愛と炎のフルネルソンを長時間受けている時間はいつギブアップしてもおかしくない雰囲気であり、そんな説得力を持つ技になっていた。

なんとか伊藤のカットでギブアップを避けたこともあってここで山下が決めるものだと思っていてちょっと安心していたのだけど、山下の蹴りを避けた愛野がUBV(ダブルアーム式変型サイドバスター)を一閃。まさかとは思ったのもつかの間、3カウントが入る。

伊藤麻希の悲痛な叫びに返せない山下実優

こんな結末になると思っていなかったのか、伊藤麻希自身は予感はあったのかはわからないけど、本当に負けてしまうとはと思ったのかもしれない。最初にマイクを握ったのは愛野でもなく、山下でもなく、伊藤麻希。

大田区体育館に向けて「どうすんだよ」と口火を切った上でプリンセスカップでも瑞希に負けた後も「ヘラヘラしている」し、「勝利への執念がない」と思っていたことをぶちまける。山下実優と最高のショーを見せてプリンセス・オブ・プリンセス王者を奪うために頑張ってきたのに「今のオマエは…」と言おうとしたところでマイクを置く。

会場全体が静まり返るぐらいの伊藤の悲痛な叫びはいつもの締めの「伊藤ちゃーん！」がなくても違う形で見ている人を揺り動かした。

締めの後に規制退場をしていたのだけど、会場が小さいことも、自分が控室側に座っていたこともあるのかもしれないけど、涙ながらにコメントを出している伊藤麻希の声が会場にも聞こえていて大田区のタイトルマッチにかける伊藤麻希の思いを感じさせながら、会場を後にすることになった。

山下も大会までに勝利への執念を見せる試合を見せて大田区を迎えるのだろう思いつつ、伊藤麻希の心を見るだけでも大田区のメインはすごい試合になるのだろうと思わせた。

東京女子は一部の選手のものだけでないという愛野ユキの強さと小橋マリカの負けん気

伊藤麻希のマイクのあとにとんでもない空気になった会場を締めたのはとにかくメインで勝った愛野ユキと小橋マリカ。「山下・伊藤が負けたことが重要」なのではなくて、「愛野・小橋が勝ったことが重要」と語る。

小橋が大田区大会のポスターに山下と伊藤しか載っていなくて拡散しにくいとか、東京女子には私達もいるし、他の選手もいるのだからそんな選手も見てほしいと語りかけたのは本当に思っているんだろうなと感じさせる言葉の重みがあった。スター選手だけにスポットライトが当たることが多いプロレスという競技の中で団体全体として選手たちが努力していることを感じさせた。不器用で、メインイベントのリングに立たない選手もそれぞれが努力していることを感じさせた。

愛野ユキがピンフォールを奪った瞬間には驚きのどよめきがあがったのだけど、振り返ってみると技の説得力や攻めの重みを感じるとあり得ないと思わるほどではなかった。山下との一騎討ちの時間に魅せた表情は見るものを惹きつける表情だったし、締めた後の充実の表情もベルトに近づいていることを感じさせた。愛野選手の努力の賜物だと感じさせる試合だった。