小学5年生の河野友敬(こうのゆうけい)君。サッカーを小学1年生から始めていて、小学校では自分の通っている楢崎第三小学校のサッカーチームに入り、五年生ながら、レギュラーとして試合に出ている。ボジションは左サイドハーフだけど、いつかはフォワードに。と、練習後も残ってシュート練習に励む毎日。
ある日、自分のクラスで席替えが発表される。河野君のクラスは班長が6人選ばれ、その班長が班のメンバーを決めていく形式で席替えを行う。そして、1回目の班長は全員男の子、2回目は全員女の子と班長は男女が順番で務めることになっている。今回は3学期の2回目の席替え。つまり、5年生最後の席替え。今回は女の子が班長。1回目の席替えの時に、班長だった友達に聞くと「お前は最初に選ばれていた」と話していた。
そう。河野くんは男の子には人気がある。いつも、リーダーで班長になりたいと言えばなれるだろう。そして、今回は女の子の班長が決めた席替え。新しい班は男の子は河野くんを含めて4人。女の子は2人。「まあ、どうでも良いや」と思って、黒板に書いてある場所に机を動かそうと思い、机の上に置いてあったサッカー日本代表で憧れのフォワードが書いた本を机の中にしまおうとした時、担任の阿久津先生、河野くんは「先生」なんてつけたくないけど、が
「河野」
と名前を呼ぶ。30才ぐらいの男の先生で、もちろん班決めにも参加している阿久津は名前を読んだ後、教室の前でこう続けた。
「お前は最後に選ばれたぞ。女の子に嫌われているんだな。なんとかした方がいいぞ」
と。サッカーの世界に心がいっていた河野君の心は急に教室に引き戻された。外では雨が降っている。2月の寒気じゃない。違った寒気を強く感じた。というより、凍りつき、周りを見る。伏し目がちの女の子もいれば、気にせず先生の方を見る女の子もいる。困っている男友達もいる。隣の親友がかけてくれた
「気にすんな」
の声も気休めにしか聞こえなかった。
「さぁ、移動しようか」
と急に明るいテンションになった阿久津の声で教室が机の移動する「ガタガタ」という音に包まれる。河野は一呼吸遅れて、机を移動させる。なんだかわからない。でも、泣きそうになった。だけど、こらえて「河野」と書かれている席へ。隣は仲の良い男友達。そして、5時間目の社会が始まる。一番好きな科目。好きな一番左端窓際、一番うしろの席。だけど、全く教科書を机の上に出す気にはなれない。河野の耳には2つ前の席にすわっている班長の女の子の
「残り物の河野なんていらないんだけど。ジャンケンで負けなきゃ良かった」
という声が聞こえた気がした。
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小檜山 歩
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