クールな上福ゆきの優しさが現れつつ、スニーキーな魅力を伊藤麻希が引き出した東京女子プロレス伊藤麻希 VS 上福ゆき

プロレスではずる賢くて上手い選手のことをリスペクトも含めて”スニーキーな選手”と呼ぶことがある。新日本プロレスの高橋裕二郎だったり、WWEでも活躍したTAJIRIなどがそんな選手の代表例なのだけど、東京女子プロレスでは上福ゆきが”スニーキーな選手”にあたる。

朱崇花とのタッグチームから生まれた伊藤麻希への挑戦

のらりくらりの中でサミングや騙し合いを使いながら一瞬のキレでフェイマサーを決めて勝つ戦いは東京女子の中で特徴を持ったレスラーとして認知されている。ボーダーレス、ジェンダーレスに戦う朱崇花とのタッグチームである「VENYU（ベニーユ）」は力を見せて大会のメインイベントで決勝戦が開催された第2回“ふたりはプリンセス”Max Heartトーナメントでも実力を発揮していた。

そんな上福がタッグリーグでピンフォールを奪った伊藤麻希とインターナショナル・プリンセス王座をかけて戦うことになった。以前、ベルトを持っていた時には3度の防衛を果たし、角田奈穂との”普通”論争は今でも試合中にネタにして会場が盛り上がるぐらいの印象的な戦いだった。ただ、上福はこの戦いの前に「逃げたくない」という言葉を使って試合への気持ちを話しており、今までの戦いとは違うことを想像させる。”友達”と語る伊藤麻希とタイトルマッチを戦うことには躊躇があるようで、気持ちを載せきろうとする中での葛藤が見え隠れしていた。

試合前の伊藤麻希のビンタにやり返さない上福ゆき

そんな中で、試合前のボディチェックから握手の流れの中で驚きのシーンがあった。近づいて目線を合わせていると思った次の瞬間、伊藤麻希のビンタが上福ゆきに多々いこまれた。ここ1年で覚醒と言っていいほどの戦いを見せ、東京女子のビックマッチだった大田区総合体育館大会のメインを戦い、年末には鈴木みのるとタッグを組んで戦うというとてつもないスピードで駆け上がっていっている伊藤は上福のどこか躊躇した表情や目に対して激を飛ばしたのかもしれないと思えるようなビンタだった。

驚いたのはビンタを受けた上福がやり返さず、コーナーに戻って試合開始のゴングを聞いたということ。何があったのかは当人たちにしかわからないけど、伊藤は上福の迷いを見抜いて気合いを入れたかったのかもしれないし、上福は迷いを見つかされたことによって伊藤のビンタを噛み締めていたのかもしれないと思えるシーンだった。試合前から不穏な空気を出すことで見ている人を惹きつけたのは伊藤麻希のうまさを感じさせた

熱さも見せつつスマホまで使ったずる賢さを見せた上福ゆき

ビリッとしているのかしていないのかわからないままでも試合は進み、他の試合にない魅力が出ていた。場外でのボディスラムなどから徐々に熱が高まっていった先で上福はスニーキーな上手さを試合に入れ込んでいく。伊藤パニッシュを決められ、絶体絶命になっている中、セコンドにお願いして伊藤麻希ともつながっている母親に電話して自分は励ましてもらった上で伊藤麻希に電話をかわって油断させている中で丸め込み連発を繰り出していった。

ここではいつ3カウントが入ってもおかしくないぐらいの攻めで、会場が盛り上がり、全力のぶつかり合いをした上でこんなずる賢さを見せてくれ幅広さで上福の株が上がった試合だった。最後には説得力のある伊藤デラックスでタップアウトを奪い、伊藤麻希がベルトを持ったまま両国へと進むことになった。

等身大の上福ゆきを伊藤麻希が引き出した！

大舞台でSKE48の荒井優希というキャリアの浅い相手との試合をすることになり、何かが怒りそうなワクワクはありつつ、誰とでも試合を成り立たせることができる伊藤麻希の凄さに期待したくなるカードになった。

ただ、この日は上福ゆきの意欲が一段上がった試合で、ゴングのあとに泣きながら伊藤麻希に「応援している」とメッセージを送る姿からはサバサバで強い女性のように見える上福の中にも弱さや迷いはあって、そんな中でも戦っている等身大の上福ゆきがそこにいた。エールを送っていい感じで終わるのかと思いきや最後はサミングで”らしさ”を見せるところも上福っぽく、1つのストーリーとして見ごたえのあるタイトルマッチだった。