プロレスラー藤田和之のピークは今だと感じさせた拳王戦！存在感と説得力で唯一無二のレスラーへ。「NOAH THE INFINITY 2021@後楽園ホール 2021年03月21日（日）」

五十歳になった今がプロレスラーとしてのピークなのかもしれないと思わせるレスラーがプロレスリング・ノアの後楽園大会のメインを締めた。そのレスラーの名は藤田和之。

プロレスができなかったはずの藤田選手が覚醒した

新日本プロレスでデビューし、総合格闘技全盛の時代にプロレスが最強だということを証明するためにアントニオ猪木の元で育った怪物であり（その歴史から未だに入場曲はアントニオ猪木の入場曲であるのINOKI BOM-BA-YEのオーケストラバージョンを使っている）、当時のプロレス界に様々な波紋を呼んだ存在が2021年にプロレスの世界で光を放っている。

受け身を取らず試合時間が短く、プロレスラーとしては観客を盛り上げることができない、負けるときにも大きな禍根を残すこともあった選手だった。新日本プロレスに上がることがなくなり、アントニオ猪木の団体や全日本プロレスの諏訪魔選手との絡みでもリングの中心にはいなかったのがノアのリングに上がることから驚きだった。GHCヘビー級選手権試合では30分もの間、対戦相手と睨み合うと言う前代未聞の試合を行ったところから藤田和之というプロレスラーが覚醒したのかもしれない。

試合レポート

今回はGHCナショナル王座である拳王から強さの魅力を求められて挑戦することになった。入場から所属する杉浦軍と共に入ってくるのだけど、桜庭和志、杉浦貴、村上和成が先導すること自体が価値がある。総合格闘技やフリーの魅力的な選手が集まっている。

試合が始まり、向き合った2人はGHCヘビー級の戦いと同じように向き合って動かない時間が少し流れる。同じように30分にらみ合うことはせずにファーストコンタクトとしての仕掛け合いで肌が触れ合う。

その上で10分弱のにらみ合いが続いた。この時間が試合中で最も長いにらみ合いで前の試合の要素も入れながら進化させていることを感じさせる。

そこからは総合格闘技のエッセンスが入ったグランドでの争いで藤田選手が一方上をいけば、拳王選手がプロレスラーとしての動きからの鋭い蹴りが連打される。

印象的だったのは蹴りを受け続ける藤田選手の姿で体の分厚さで拳王選手の迫力を受け止める姿が光る。十分受け止め、痛みを感じさせた上で張り手で拳王選手をフラつかせる。1発目は決まらなかったパワーボムを仕掛ける表情は観客を飲み込んでいた。

拳王選手の意地の反撃としてのサッカーボールキックは決まったかと思わせる雰囲気だったが、フットスタンプはかわされてしまう。

最後は説得力十分の投げっぱなしパワーボムからサッカーボールキック2連発で藤田選手が王座を奪取した。サッカーボールキックが決まった瞬間には声を出すことは禁じられているはずの後楽園ホールがどよめいた衝撃だった。総合格闘技でも歴史を紡いできた藤田選手の技には桜庭和志選手の関節技と同じような説得力がある。

試合後には同じユニットの杉浦選手が挑戦を表明し、藤田選手という世界観に様々な選手が関わっていくという期待感を持たせるようなエンディングだった。マイクパフォーマンスをせず、総合格闘技の試合後を思わせるようなチームの写真撮影まで世界観があった。

ノアでプロレスラーとして完成した藤田選手

試合が短く見応えがないと言われることが多かった藤田選手のプロレスラーとしての価値が高まったのは潮崎豪選手とのにらみ合いが大きなきっかけだった。大きく厚い藤田選手が佇んで相手と見合うだけでも絵になり、お金が取れるシーンになっている。観客は次に何が起こるのかということを心の中で想像し、煮えたぎらせながら見ることができる空間を作るようになった。

にらみ合いに説得力をもたらせる存在感は総合格闘技で活躍してきた歴史と今でも他のプロレスラーはない体つきによってもたらされている。技の説得力は昔からあったが、サッカーボールキックに特化し説得力を高めてきたこともある。これからの藤田選手のGHCナショナル防衛ロードが楽しみになったと共に玉砕はしたものの戦いを見せてくれた拳王選手にも感じるものがあった試合だった。