「人はなぜ人を殺すのか」
ミステリーで作者によって重み置きが結構変わるのが動機ではないだろうか。トリックに重きを置く作者の場合、人を殺す動機が浅いんじゃないかと思うことがある。こんなことで人を殺してしまうのかと。
その一方で少年漫画「金田一少年の事件簿」の原作者である天樹征丸が「少年向けであるからこそ、人が人を殺す理由」については丁寧に描きたいと語るように動機を細かやかに描く人もいる。この小説はどちらかといえば後者だろう、というよりも、探偵が追い求める真実の中に動機が入っている。
Howではなく、Why
クリミア戦争直後のヨーロッパ、イギリスが舞台のミステリー。洋書としては5冊、邦訳も4冊出ているらしいウィリアム・モンクシリーズの邦訳4冊目。
刑事から探偵になったモンクが謎を解き明かう。今回の事件は良き協力者であり、気になる(?)相手でもある女性ヘスターに名門ファラリン家の女主人・メアリ殺害容疑がかかってしまった。モンクはもう一人の協力者で敏腕弁護士のラスボーンと共にヘスターの無実を証明するために操作を始める。
限りなくヘスターが怪しいが、ファラリン家の家族に犯行が不可能な状況であった訳ではない。だからこそ、他の家族に犯行が可能だったことの証明だけでなく、名門ファラリン家の中にあるであろう動機を探っていく。
どちらかといえば動機を探ることの方が主眼になっている物語。ミステリーながらトリックよりも人間関係が主に描かれている。
調査、法廷バトル、そして、調査
タイトルが「偽証裁判」あるように物語の1つのクライマックスがヘスターが裁判にかけられる法廷のシーン。実際の法廷さながらの舌戦が繰り広げられる描写は判決が言い渡されるときに少し緊張してしまうほど。
男性の支配が強い中で戦う女性
状況証拠しかない状況でヘスターが不利な状況に置かれた原因の一つに当時の時代背景がある。クリミア戦争が終わった頃といえば1800年代中頃で女性は家で家庭を守ることがよしとされていた時代。それは法廷のシーンで検事がヘスターに投げかけたこんな言葉からも明らか。
「理屈っぽい人ですね、あなたは!物柔らかな態度や、繊細さや、謙虚な気持ちに欠けています。それはあなたの性にとって大切な誉れだというのに」
今の時代にこんな物言いをしていたら大きな問題だが、この時代ではそんなことはない。それが時代を示しており、探偵モンクとヘスター、ラスボーンは事件そのものだけでなく、当時の権威と戦わなければならない状況がある。
そんな中でヘスターの無実を証明し、真犯人の動機・トリックを証明できるのか。ラストの数十ページは途中でやめらえないスリリングさがある。
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【オススメ度】
★★★☆☆
【キーワード】
ファラリン家
クリミア戦争
スコットランド、エディンバラ
ヘスター
上流階級・女性
メアリ
モンク
ラスボーン
毒殺
トリックではなく、動機を探るミステリー
ナイチンゲール
名門一族
戦場の現実
男性支配への挑戦
小檜山 歩
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