プロレス界の横綱と呼ばれている里村明衣子の引退試合に行ってきた。大会全体を通して里村明衣子だからこその大会になったと思いつつ、引退試合で横に立った愛海選手のこれからに期待をしたいと感じた。そんな大会全体をメインイベントの引退試合を中心に振り返る。
プロレス界の横綱らしく戦ってきた引退ロードの終着点
里村明衣子が引退試合の場所として選んだのは後楽園ホールである。早々にチケットが売り切れになったことからも両国国技館などの会場でやっても良かったのではと思いつつも30年のプロレス人生をデビュー戦と同じ場所で終えるのも里村明衣子らしい。
2025年4月29日、後楽園ホールで開催されたセンダイガールズ(以下、センジョ)の興行である「里村明衣子 THE FINAL」のメインイベントでプロレスラーとしての現役生活に幕を下ろす。
里村明衣子というレスラーの魅力を表すかのように後楽園ホールのロビーには多くのねぎらいの花が飾られていた。正直、ここまで多くの花が後楽園ホールのロビーにあるのは見たことがないくらいで多くの選手、関係者たちに慕われていることが表れているロビーだった。

そんなロビーを通り過ぎて自分の席に座ると前売りで満員札止めの通り、里村明衣子の引退を自分の目で見るために集まった人たちでごったがえしており、取材のためのカメラも多く試合前から動いていた。
そんな期待が充満するリングの中ではそれぞれの選手たちが引退試合前にそれぞれ色が違う4試合を見せた。
里村明衣子の名の下にレスラーたちが盛り上げてメインへ
第1試合はセンジョの岡優里佳、YUNAのタッグにセンジョに継続的に参戦している鈴木ユラとマーベラスの逸材と言われる暁千華のタッグが向き合う試合で若手中心のハツラツとした試合で真っ直ぐなプロレスを見せる。最後はセンジョ所属の岡優里佳が旋回式ダイビングボディプレスで暁千華ならフォール勝ちを奪って勝利した。この中ではキャリアの長い選手ということもあって順当と言える結果のようにも見えるが、入場の時にはっちゃけていた岡が勝利した後に少し安心したようななんとも言えない表情を見せていたのが印象的だった。


第2試合はプロレスラーのオマージュの天才であるシン・広田さくらがXと組んで女子プロレスのレジェンドであるジャガー横田と尾崎魔弓と戦う試合。シン・広田さくらは期待通り?に里村明衣子をオマージュしたシン・里村明衣子でやってきた。里村の入場曲が流れた時の会場の盛り上がりは大きかった上にパートナーが里村明衣子と共にセンジョ旗揚げした新崎人生ということで偽物との師弟タッグとなった。
シン・里村明衣子と新崎人生のトップロープ歩きの共演も見れた上、この試合らしく尾崎魔弓がいつものヒールファイトではなくてシン・広田さくらっぽい試合を見せたのも印象的で、このリングの特別感を感じさせる戦いだった。



第3試合は里村明衣子と戦ってきたレスラーたちにXを加えたバトルロイヤルで発表されていた選手たちが一緒に入場してきたあとにXが入場してくる。彩羽匠、高橋奈七永が入場してきて、対戦カードの画像ではXは2人のシルエットのみだったこともあってこれで終わりかと思ったらそんなことはなくて更にレジェンドが出てくる。
井上貴子、井上京子、神取忍と次々に驚きの選手が出てくると最後に出てきたのは男子レスラーの鈴木みのるということで大騒ぎの中で「風になれ」コールが生まれた。
試合で光を放ったのはみんなのアニキ、水波綾。乱戦の中で鈴木みのると一対一になると気合いのチョップ、エルボーを放ち、みのるのすごいエルボーも受け止める。バトルロイヤルのルールを活かしてオーバー・ザ・トップロープでみのるを落とした時には選手も観客も一体となって盛り上がった。


バトルロイヤルの余韻を噛み締める休憩の後の第4試合ではレナ・クロス、ニナ・サミュエルズの外国人にVENYを加えたトリオをセンジョ生え抜きのDASH・チサコ、岩田美香がSareeeを加えて迎え撃つ6人タッグマッチでセンジョらしい大きい強い外国人にセンジョで鍛え上げられた日本人がぶつかっていく試合だった。最後はDASH・チサコがホルモンスプラッシュで勝ってメインに繋げるのだけど、メインに向けてDASH・チサコがマイクを握って里村に対する想いを話した上でメインイベントへと進む。

どの試合も色が違う中で満員の会場を盛り上げた試合でプロレスの魅力を噛み締めながらメインイベントに進むのだけど煽りVTRから心を動かされた。
「ネームバリューは足りない」けど「できる子」への期待
メインイベントの煽りVTRは里村明衣子が引退ロードを振り返りつつ、引退試合のリングに立つ3人それぞれついて触れる構成になっていた。アジャ・ゴングは終生のライバルであり、橋本千紘は引退ロードのシングルで敗れてベルトを取られた相手としてのリベンジを話す。
でも、パートナーである愛海に対しては違っていた。「期待を込めて選んだ、ネームバリュー的には全然足らないことはわかっているけど、その期待を裏切ってほしい。それができる子である」という言葉を使って愛海をメインイベント、自分の引退試合のリングにいざなった。
この状況に震えてしまった。
里村明衣子の優しさと厳しさの両面を感じる映像だった。世界に名が知られている自分の引退試合で自分の隣に立って期待に応えてほしいという優しさと応えられるように頑張らないといけないことを求める厳しさ。どちらかといえば厳しさの方が大きいのかもしれない言葉だけど厳しさを突きつけてくれる人がいることのありがたみを感じる年にもなってきたこともあり、里村明衣子の指導者としての姿を感じる煽りVTRだった。そんな気持ちになる中で選手が1人ずつ入場してくる。
最初に入場してきたのは愛海。緊張が表情から感じられる中でも吹っ切ろうとする意志を感じる姿を見るだけで心に感じるものがある。

アジャ・ゴング、橋本千紘と入場し、最後に引退試合に臨む里村明衣子が入場することになる。シン・里村明衣子の入場で一度聞いたイントロもまた違った曲のように思える雰囲気の中で里村明衣子がやってくる。いつも通り、髪を後ろにまとめ、赤色のガウンを着てゆっくりリング上に上がり、四方に手を挙げてアピールをする。この動きを見ることができるのも最後なんだと噛み締める。

小橋建太さんの花束贈呈からメインイベントらしく選手のコールとなる。アジャ・ゴングのコールの先にはアジャが前に歩みを進めて里村と向きあう。リングの上で戦い続けてきた2人の最後の交わりはどうなるのか期待が上がっていく。

里村明衣子のコールの時には引退試合らしく一瞬、里村が見えなくなるぐらいの紙テープが飛ぶ。リングアナが下がり、里村明衣子と橋本千紘の先発で里村明衣子引退試合のゴングが鳴る。

相変わらずのハイレベルなグラウンドの攻防の中で苦戦を強いられるのが愛海。現時点でセンジョのトップのベルトを持つ橋本千紘とこれまで多くの栄冠を獲得してきたアジャ・ゴングに対してなんとかぶつかっていく若手の側面が強いマッチアップになる。

そんな中でも食らいつく表情は自分にかけられた期待を痛いぐらいにわかった上で向きあうレスラーの姿があった。特に卍固めで橋本千紘に絡みついた時の表情は吹っ切れたようにも見えた姿でこのメンバーの中にいることの違和感を吹っ飛ばしてくれた。

愛海が期待に応えた先でどんな決着になるのか。それは自分にとっては意外な決着だった。
里村明衣子が橋本千紘に敗れると思っていた中で…
引退試合は引退する選手が敗れて未来に繋ぐことが多い印象があることもあり、シングルのタイトルマッチで敗れた橋本千紘がタイトルマッチでは決め切れなかったオブライトを里村に決めて勝利すると予想していた。しかし、そうはならなかった。
最後に里村明衣子の対角線に立ったのはアジャ・ゴング。里村の必殺技であるスコーピオ・ライジングを喰らって3カウントを奪われ、里村は引退試合を勝利で終えた。自分がアジャ・ゴングと里村明衣子の試合をリアルタイムで見ていない世代であることもあって、この決着は予想していなかった。しかし、2人の関係性を昔から見ている人たちにとってはこの決着であるべきだと感じる結果だったのかもしれない。


引退試合の決着の後にはアジャ・ゴングの呼びかけで里村明衣子とアジャ・ゴングがタッグを組んで、名乗りを上げた彩羽匠、橋本千紘、岩田美香、YUNA、暁千華の5人とハンデキャップの5分間の特別試合をするボーナストラックもあり、会場は盛り上がった。
センジョの所属選手ではそれぞれ第1試合とセミファイナルで勝ちを収めた岡優里佳とDASH・チサコ、引退試合のパートナーを務めた愛海が特別試合には立たなかった。3人はやるべきことをすでにやり切っていたからなのかもしれないと感じる特別試合だった。
特別試合を終えると引退セレモニーとなり、棚橋弘至、中邑真輔、ASUKAなどのビデオメッセージからさまざまなレジェンドがやってきての花束贈呈、最後にはクラッシュ・ギャルズに囲まれての記念撮影から里村明衣子がマイクを握り、メッセージを伝えてからの10カウントゴングで試合の時よりもさらに赤く染まったリングで里村明衣子が現役生活に別れを告げた。


改めて里村明衣子というレスラーの凄さを感じると共にセンジョの未来を感じる大会だった。
これからのセンジョの中心は橋本千紘かもしれない。でも…
振り返るとこの日の試合では第1試合とセミファイナルとセンジョの選手が出た試合では必ずセンジョの選手が勝利を収めて里村の引退に花を添えている。その上でメインイベントでプレッシャーがあったであろう愛海が里村明衣子の「それができる子」という言葉に応えて戦い切った。
センジョといえば、現チャンピオンであり、怪物と言われる橋本千紘の名前が上がることが多く、多くの団体に上がり、男女関係なく試合をするレスラーとして名前が知られている。しかし、橋本だけでセンジョを大きな団体にすることはできない。
岩田美香やDASH・チサコも外に出て戦っている中で次の世代の奮起が求められる。バナナの被り物でキャラが確立し始めて現在欠場中ながら桃野美桜とのタッグで外の団体で戦っている岡優里佳だけでなく、岡の2年先輩である愛海も実力をもって女子プロレス界、世間へ打って出る必要がある。そんな愛海への厳しいながらも優しい後押しの側面もあった里村明衣子引退試合だった。
改めて引退試合を現地で見ることができたことは良い時間で、里村明衣子さんに対してお疲れ様でしたと思うとともに、これからのセンダイガールズプロレスリングの発展に期待したい。里村明衣子が果たせず、橋本千紘が改めて誓った日本武道館大会が決まったらその日は必ず行きたい。
そして、引退のマイクで里村明衣子が発した「プロレスは本当に素晴らしいもの」という言葉に同意し、これからもプロレスを追いかけていきたい。

小檜山 歩
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