ナボコフの「ロリータ」に続く借りたロリータに関する本の二冊目。今まで読んだ小説の中で、2011月4月15日現在、一番「良い」小説だと思った。衝撃の出会い。それは、衝撃とリアルさによる。ノンフィクションに読めてしまう。
作者の事実かフィクションかという論争を読んだ本でもあるらしい。☆5つ。
ロリータ・ファッションを愛する作家と美少女モデルの話。それが、とんでもないことになっていく。その中での2人を描くけど、その2人が本当に居るように頭の中で動いていく。渋谷や原宿に行けば、こんな話が聞けるような気がしてくる。「ハネ」という短編も含まれているけど、この「ロリヰタ」には敵わない。ロリータとロリコンの違いやこひやまが本当に知識のないファッションの話もあって、魅力ある文章に埋められている。その中でテーマがこの本には1つ+2つあると受け止める。
最初の1つはロリータとギャルの違いとして書かれていること。それが、ただ興味深かった。そして、プラスの2つは人を愛することと、言葉は伝わらないということ。
まず、あっさりと、ロリータとギャルの違いについて。
P20 ギャルとロリータには根本的に通ずるものがあるというのが僕の見解でした。
P20-21 「ギャルにしろ、ロリータにしろ、彼女達、否、僕達といいましょうか、は他人の照準を全く気にかけることなく、自分の中にある尺度で、自分が纏うローヴを選択するんです。自分が好きなものを着る。自分がなりたいものになる。その原則を如何なる時もしっかりと守るのが、ギャルでありロリータなんです。足を使って競技するサッカー選手が、手を使うなんて邪道だとバスケットボールを否定しますか?ルールは違えども、スポーツマンシップがあるように、ギャルとロリータのメンタリティの表層的な差異はいくらでも列挙できますが、それは無意味に近い行為だと思います」
ギャルも、ロリータもそんなに深く考えなかった自分にとって、この2つにとってなるほど。と思った箇所。そして、核だと思う2つのテーマ
1、 人を愛すること
少し、ネタバレになるけど小説家と9才のモデルの純愛とそれがスキャンダルになることがこの本の話。その中で小説家である主人公の僕は少女のことを「君」と呼ぶ。その意味を考えたりする。その君と僕の関係がその呼び方に1つの意味を見いだせるかもしれないからこそ。そして、人を好きになるには、ということにつながる。
P94 「僕には人を好きになる資格がないんだよ」
「人を好きになるのに免許証なんていらないよ」
「否、免許証は必要なんだよ。その免許証は取得するものじゃなく、生まれた時に既に持っているものだから、誰もが自分がその免許を持っていることに気付かない。僕もかつて免許証を持っていた。でも、失くしたんだ」
というやりとり。そんな風な考え方もあるね。きれいな文だけど、こひやまはそう思わない。生まれた時から人間は人を愛する資格を持っているとは思わない。人のことを信頼し、自分をさらけ出したその時に、人は人を愛する資格を得るんじゃないかと思う。
そして、2つ目。
2、 言葉について
小説家として主人公は伝えたいことが
P45 「どうして・・・伝わらない」
と悩む。その中で、9才のモデルが語りかける。このやりとりに引き込まれた。少し長いけど引用します。
P154-157 「言葉なんて、思ったことの全部が、伝わらなくて当然なんだよ」
僕はその台詞に思わず、落としていた頭を上げ、僕の横に立つ君の顔を見詰めました。君は静かにいいました。
「私は、話すのが苦手で、それを治さなきゃと思って、一生懸命、自分が話すのが苦手な訳を、考えたの。モデルのお仕事をやる少し前くらいに。そしたら、解ったの。私は、自分の考えていること、思っていることを、相手に全部、ちゃんと伝えようとするから、話せなくなるんだって。気持ちって、言葉なんかじゃ、半分も伝わらないの。言葉ってそういうものなんだって思ったら、急に、楽になったの。相変わらず、お話するのは下手だけど、上手くなったって、どうせ全部、思ってることを伝えることなんて出来ないんだからと考えるようにしてからは、少しは人とちゃんとお話が出来るようになったよ」
「でも僕は作家で、言葉を使って全てを伝えなければならない仕事をしているんだ。僕は言葉を取ってしまったら、何も残らない」
「そんなこと、ない。だって、王子たまと、私はちゃんとお話が出来ているじゃない。私はまだ小学生だし、言葉を、大人で作家の王子たまより、とてもとても知らないの。だから王子たまが喋ることの中に、解らない言葉、一杯あるよ。メールなんか、読めない漢字が一杯あって、困るよ。でも王子たまが何をいおうとしているのかはちゃんと解るし、気持ち、伝わってるよ。もし、言葉だけで気持ち、全部、相手に伝えられるんだったら、メールの遣り取りだけで、満足出来ると思う。でも、いくらずっとメールし合っていても、直接、お話ししたくなるでしょ。それは、言葉が気持ちを伝えるんじゃなくて、気持ちを言葉が伝える為に、あるからだと思うの。――何か、自分でいってて、こんがらがってきたけど、いってること、王子たま、解る?」
「解る――」
僕は深く頷きました。
「お話の内容なんて、本当はどうでもいいの。お話ししているってことが、大切なの。一緒にお話ししているってことが、気持ちを伝えるってことなの。だから逢いたくなるの。Eホテルのお部屋で初めてずっと一緒にいた時、ずっとババ抜きして、お話しなんてしないで、寝ちゃったでしょ。私、スゴク愉しかったよ。お話なんてしなくても、王子たまのこと、どんどん好きになって、王子たまの気持ちに自分の気持ちが近付いていくの、感じてたよ。何かを伝える為に言葉はあるけど、でも言葉だけじゃ気持ちは少ししか伝えられなくて、だから好きになると、手を絡いだり、抱き締め合ったり、キスしたりしたくなるんだと、思う」
そうです。何を伝えるかが問題ではなかったのです。伝える内容よりも、伝えようとすることが重要なのです。拙い言葉でもいい。誤解を受ける言葉でもいい、伝えようとする必死さこそが想いを運んでくれるのです。君が寄越した最後の絵文字だけのメール。病院と破れたハートと爆弾のアイコン。それは幾千の選りすぐられた言葉より、僕の胸に突き刺さった。ヨハネによる福音書は「初めに言(ことば)があった」と世界の始まりを語ります。が、それは間違っているのです。初めに想いがあり、それを伝える為にきっと、言葉は生まれたのです。
想いがあり、それが言葉につながる。ということ。ものすごく分かる。というか、言葉を考える際の、良質な文。自分は伝えようとする必死さも好きだし、それを失いたくない。どんなに稚拙な言葉でも想いがあれば良いと思う。
こうやってダラダラ書いていると、本のことを書いているのか、自分のことを書いているのかが分からなくなっていく。でも、良いかな。と思える。自分はロリータもギャルも嫌いじゃない。むしろ、好きなのかもしれない。そんなことを思ったあとに読み進めていくと、リアルで、ある意味で充実した世界がこの本には広がっている。
高橋源一郎さんのあとがきではロラン・バルトの「モードの体系」の議論を参考にし、「男」の「物語」と「女」の「物語」という区別から、この本を分析しており、それも興味深い。
題名は買いにくさを生むと思う。でも、そんなことよりも、本の中の物語の充実さで損をさせない本だと思う。スッキリした終わりじゃないけど、人とのつながりが、薄いものになっている。言葉が軽くなっている今だからこそ、人生の糧として読んで欲しい超良書。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
小檜山 歩
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