新日本後楽園のメインでやることに意味があったハードコアのIWGP Jrタイトルマッチ エル・デスペラード VS クラーク・コナーズ(2025年4月4日)

新日本プロレスのメインイベントでハードコアをやった先の未来を想像する試合だった。

2025年4月4日に後楽園ホールで開催された『餓狼伝説 City of the Wolves presents Road to SAKURA GENESIS 2025~Jr.GENESIS~』のメインイベント、IWGPジュニアヘビー級選手権試合を振り返る。

王者であるエル・デスペラードが逆指名した挑戦者のクラーク・コナーズがハードコアマッチを要求して成立したこのカードに、後楽園ホールは超満員札止めとなった。セミファイナルのジュニアタッグ戦が熱戦だったこともあって、観客の期待が高まっていた。

リング上では、通常のメインイベント前とは異なる準備が進められる。コーナーパッドが外され、「No pain No gain」と書かれたFREEDOMSのTシャツを着たスタッフ(おそらく296さん)が、手を怪我しないための手袋を着用し、試合の準備を進めていた。

各コーナーには殴り合うための椅子、場外にはハードコアマッチでよく見られるゴミ箱と、その中に何本もの竹刀が用意されていた。何が起こるのか、観客は期待と不安が入り混じった表情でその光景を見つめる。ハードコアマッチ特有の、張り詰めた空気が会場を包み込む。そんな中、怖さを感じる煽りVが流れ、挑戦者クラーク・コナーズが入場。

コナーズはテクラを含むWAR DOGSのメンバーと共に入場するも、Too Sweetポーズをした後、メンバーを下がらせて1人でリングへ。対する王者デスペラードは、いつも通り1人でリングに向かう。両者がリングに立ち、試合にかけられるIWGPジュニアヘビー級王座のベルトを確認した後、距離を取り、試合開始のゴングが鳴った。

ゴングが鳴ると、すぐに武器を使うのではなく、まずは胸へのチョップ合戦から試合が始まった。互いに痛みを感じながらも、デスペラードが上から目線でコナーズを挑発する。そんな中、2人はリング上で何かを会話した後、椅子を持ち出し、椅子を使った攻防、いわゆる「椅子チャンバラ」からハードコアマッチが本格的にスタート。巧みにかわしながら、コーナーパッドが外されたコーナーを利用してダメージを与え合うと、試合は早くも場外戦へと展開していく。

この日の後楽園ホールはリングと観客席の間に鉄柵が置かれていないことで場外戦は観客席へなだれ込んでいく。西側の椅子席にコナーズがデスペラードを投げつけたのをきっかけに場外戦が始まり、北側では銀色のゴミ箱でコナーズがデスペラードを殴打。観客席になだれ込み、観客も巻き込むような展開となる。北側から降りてくるときには、雪崩式ブレーンバスターでひな壇になっている高さから落とすのではないかという場面もあり、東側の椅子席にも投げつけるなど、場外乱闘は激しさを増していく。

さらに、銀色の大きなゴミ箱に入っていた竹刀を互いに手に取り、観客が最も多い南側の階段を登っていく。観客席の中段にある通路で竹刀を持って向き合うと、走り込んで竹刀をぶつけ合う乱戦に、観客は一体となって盛り上がった。竹刀での殴り合いで優位に立ったコナーズは、動けなくなったデスペラードを脇に抱えてリングサイドに運び、自身のコスチュームからベルトを取り出す。

ベルトで殴るのかと思いきや、コナーズはデスペラードをコーナーポストにくくりつけた。動けないデスペラードに対し、コナーズは竹刀を振りかぶり、持ってきたお酒を飲みながら何度も殴りつける。その迫力に、最前列で観戦していたデスペラードファンらしき女の子が試合を見れなくなり、母親らしき人に抱っこされるという場面も見られた。

ハードコアが深まった先で決着

ここまでの場外戦で、一応、準備された武器はすべて使用された。ハードコアの攻防はここまでかと思われたが、そうではなかった。コナーズは飲んでいたお酒の瓶をリングサイドにいた観客のタオルに巻き付けると、コーナーポストに叩きつけて割る。そして、割れた瓶を見せつけた。

正直、割れるものは使わないと思っていた。蛍光灯デスマッチでよく準備されるビニールシートがリングサイドに敷かれていないし、ハードコアマッチとはいえ、そこまでやるのかと。しかし、コナーズは躊躇なく、割れにくい酒瓶を思いっきりコーナーポストに叩きつけ、お酒とガラスの破片が飛び散る中、割れた酒瓶をデスペラードの顔に突き立てていく。コナーズがここまでやるとは思っていなかったが、デスペラードはデスマッチファイターさながらの覚悟で応戦する。

デスペラードも酒瓶を奪い、コナーズの顔に突き立ててダメージを与え、コーナーに登って英語で数字を数えながらナックルを落としていく。さらに、デスペラードは椅子で橋をリング上につくるオブジェを完成させ、コナーズに雪崩式ブレーンバスターを狙う。その姿は、まるで伊東竜二や佐々木貴といったデスマッチファイターを連想させる。しかし、コナーズはこれを耐え、逆にパワーボムでデスペラードをオブジェに叩きつけてダメージを与える。。

ここで武器を使ったやり取りは終わるかと思いきや、この日の最後の武器が登場する。それは、リング下にあった有刺鉄線が巻き付けられた椅子だった。

デスペラードが椅子を高く掲げたとき、後楽園ホールは大きくどよめいた。この日の観客の中には、このような試合をあまり見たことがない人もいるのだろう。そんな観客に、デスペラードはハードコアマッチを持ち込んでいるのだと感じさせるどよめきだった。

有刺鉄線が巻き付けられた椅子を持ったデスペラードに、コナーズがスピアーで突っ込む。互いが痛みでのたうち回り、有刺鉄線を剥がしてお互い手に巻きつけた上で顔に突き立て合う。その光景は、痛々しくも凄まじい。そんな中、デスペラードがバックドロップでコナーズの背中を有刺鉄線イスに叩きつけてからピンチェ・ロコを狙うも、コナーズはトロフィーキルで叩きつけ返す。見応えのある攻防から、この日一番の驚きを生んだ攻防へと進む。

コナーズがデスペラードをコーナートップに据えつけ、必殺技のNO CHASERの雪崩式版を狙う。大技の狙いに会場がどよめく中、デスペラードが反撃して耐えると、場外に据え付けていたテーブルにコナーズごとぶち落とす。スパインバスターの形でコーナートップから場外のテーブルに雪崩れ込んだ攻撃は、会場を大きく沸かせ、この技でリングアウト勝ちになってもおかしくないほどの衝撃だった。

フラフラのデスペラードとコナーズはリングに戻るも、ダメージの大きなコナーズは動けない。それでも、コナーズはデスペラードに中指を突き立てる。これは、2人の試合の中でデスペラードがコナーズに見せた中指を、逆に突き立て返すコナーズの意地だった。その中指を掴んだデスペラードは、垂直落下式ダブルアームパイルドライバーからピンチェ・ロコを決め、37分53秒の熱戦に終止符を打った。

決着の瞬間、会場は大きな歓声に包まれ、戦った2人に拍手が送られた。

リングの上で、デスペラードは乾杯のビールを持ち出し、2人は乾杯の上で改めて中指を突き立て合う。痛みを伴う戦いの後でビールを味わえる時間は、至福のひとときなのだろう。その姿は、日常の苦労と幸せを重ねるようにも見えた。

両国のビッグマッチはヘビー級中心であることもあり、セミファイナルのタッグマッチも含めて、4月のジュニアの頂上決戦の締めくくりとして、後楽園ホールには銀テープが舞い、デスペラードがそれを受け止めたのが大会の締めとなった。

デスペがハードコアを新日本後楽園メインでやった先には何がある?

試合後にX(旧Twitter)で感想などを見てみると賛否両論があり、セミファイナルのジュニアタッグマッチがハイスピードな展開でジュニアの技の魅力やタッグならではのハラハラ感もある熱戦だったこともあって、ハードコアマッチに対して批判の声もあった。自分はハードコア、デスマッチ至上主義ではないけれど、プロレスの1つとして観に行って楽しませてもらうプロレスファンなので、これはこれでセミファイナルとの対比もあっていい試合だったと思う。

デスペラードがメインイベントでハードコアマッチを戦ったことをどう考えるのか。新日本プロレスの中にはハードコアやデスマッチでの試合をしたくないと考える人もいる。所属選手の中で最もキャリアの長い永田裕志も、鍛え上げた肉体をぶつけ合う戦いが新日本プロレスだからデスマッチやハードコアは自分はやらないという趣旨のことをYouTubeで話していたこともあった。

ジュニアの選手の中にも、デスペラードのデスマッチ、ハードコアの戦いは新日本プロレスがやることではないと考えているレスラーがいるかもしれない。でも、ジュニアの1番のベルトを巻いているのがデスペラードであるという事実がある中で、考え方のぶつけ合いをリングの上で見せることを期待してしまう。

デスペラードはこの試合を新日本プロレスでやったことに関して、東京スポーツのインタビューに答えていてこんな言葉を残している。

デスペラードは「基本的には(プロレスを)広めたいわけだよ。でも会社が『プロレスを広めるんだったら、ハードな、デタラメなことはナシにしよう』っていうのは、俺は嫌。だってプロレスって暴力でしょ? それをどうエンターテインメントに昇華させるかが、俺らが普段練習しながら考えてることで。技術を高め合うのももちろん重要なこと。でもそれだけだと失われるものは必ずある」と持論を展開した。

【新日本】エル・デスぺラード 史上初のハードコアJr.戦の意義「だってプロレスって暴力でしょ?」 | 東スポWEB

最前列でデスペラードの人形を持って応援している小さい女の子が試合の苛烈さに泣いてしまって途中から見れなくなっても、この試合をやり切るデスペラードにはプロレスに対する思想があり、その思想が別の思想とぶつかる未来も期待したい。

ハードコアに対して、鍛え抜かれた体での打撃や飛び技、締め技が至高であるというような考え方のぶつかり合いにプロレスの魅力があるの華やかな戦いが売りの高橋ヒロムや、バキバキの体で戦いを見せる石森太二、オーソドックスながらも正確な技を持つマスター・ワトなどとのぶつかり合いの中で、技だけでなく考え方が戦いに投影されるとさらに面白くなるんじゃないかと考えさせられるメインイベントのIWGPジュニアヘビー級ハードコアタイトルマッチだった。

MAOが途中からセコンドで出てきた

DDTプロレスリング(以下、DDT)推しの自分としては、ハードコアマッチや鉄柵なしの会場にはDDTで慣れていて、この日の第1試合に参戦し、後日、スーパージュニア参戦が発表されたMAOが、慣れていなそうなヤングライオンの様子を見てなのか、そうでないのかわからないが、セコンドのお手伝いをしていた。

テーブルダイブの前にいる観客の誘導や、壊れた武器の後片付けをしていたのが印象的で、いつかDDTからプラケースを持ち込んでデスペラードとIWGPジュニアヘビー級のベルトを賭けて戦うのを期待してしまった。そんな未来を想像できるMAOの魅力も再確認できる姿でした。

参考リンク

AKURA GENESIS 2025 | 新日本プロレスリング株式会社
https://sp.njpw.jp/tournament/result/550216

【新日本】エル・デスぺラード 史上初のハードコアJr.戦の意義「だってプロレスって暴力でしょ?」 | 東スポWEB
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/339962

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小檜山 歩

コンサルタント日系総合コンサルティングファーム
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。
小檜山 歩
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。