サッカー日本代表の専属シェフとしてドイツと南アフリカワールドカップで腕を振るい、選手と触れ合ってきた筆者の物語。
日本代表のシェフになったきっかけから、ドイツ、南アフリカワールドカップで体験したことまで語られている。その他に、シェフとしての安全管理の問題や、どうやっておいしく食事をしてもらうのかの工夫、南アフリカワールドカップに持って行った食材リストや日本代表も食べたいくつかのレシピが書かれていて、料理人の方や、人をサポートする役職の人にも参考になる内容だと思う。
また、サッカー好きの人にとっても、ドイツワールドカップと南アフリカワールドカップでの結果の違いをチーム内の様子を1つの要因として、暗に示しているように読み取れる。シェフの目から見た日本代表観察記の一面もある。
サッカー選手や監督の質が勝負を決めるわけじゃない。と強く感じた箇所がある。イングランド代表との練習試合の際の描写だが、
P160 イングランド戦が行なわれたグラーツに、私は帯同しました。イングランドとの試合で驚いたのは、試合後にロッカールームの隣のスタッフルームで、パスタなどあたたかい料理がケータリング・サービスで提供されていたことです。日本でもサンドイッチぐらいはロッカールームに並べますが、あたたかい料理を持ち込んで提供することはしたことはありません。イングランドはスタッフの数だけでも日本の二倍以上の五十五名いる、と聞いてもっと驚きました。日本では一人でこなしている総務の業務も、イングランドは三人で担当しているのだそうです。食事の準備にかける人員も予算も、きっと日本とは比べものにならないだろう、とパスタを食べているイングランド・チームの関係者たちを見ながら思いました。
世界で勝つにはこういう部分も必要なんだろう。ここに出すお金を増やすことも考えていくべきなのかもしれない。そして、二四番目の選手として日本代表のエンブレムと24の番号が入ったシェフコートを着て仕事をするこのシェフは元々Jヴィレッジの職員である。あのフクシマにある。Jヴィレッジであり、今は救助隊が寝泊りしている場所で働いていた。
P14 福島県に原子力発電所を置き首都圏に電力を供給している東京電力が、県の地域振興に貢献する目的で、福島県、日本サッカー協会・Jリーグをパートナーとして、日本初の総合的なスポーツ施設を建設していました
という文章を読むと、何とも言えない気持ちになる。著者に罪はない。でも、やっぱりそれと結びつけて考えてしまう。この本の印税は全額義援金となるらしい。その筆者の思いと、日本代表に対して無批判ではない文章が筆者の体験記の上に重なっていることに☆4つ。
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小檜山 歩
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