もがいている。未来を潰したくない。海野コールをしよう。~4.5新日本両国で1番感じたこと~

2025年4月5日、春の新日本プロレスビッグマッチ「餓狼伝説 City of the Wolves presents SAKURA GENESIS 2025」が両国国技館で開催された。ビッグマッチらしく、多くの動きがあった大会であり、試合の充実さや幅広さに改めて新日本プロレスの魅力を感じた。その中でも、特に印象に残ったのは海野翔太へのブーイングだった。最近、新日本プロレスでよく話題になるテーマであり、様々な意見が出ているが、両国国技館の現場で感じたことをまとめてみた。

海野翔太へのブーイングを現地で聴いたことがなかった

新日本プロレスのメインイベントを裁くレフェリーの息子であり、新日本プロレス生え抜きで育ち、海外遠征から帰ってきた海野翔太は、いつの頃からかブーイングの対象になっていた。入場時には観客席から入ってきて、子どもたちと触れ合い、リング上では感情を露わにしながらも正統派の戦いをする。最初はブーイングもなかった。しかし、ここ1年ぐらいでブーイングが大きくなってきた。

大きなトーナメントを優勝したことがない、シングルのベルトも戴冠したことがない、戦いもそこまで突き抜けていない(と観客は感じているのだろう)。それなのに、なぜ新日本プロレスの年間最大のイベントである1.4東京ドーム大会のメインイベントのリングに立てるのか。

以前にもブーイングが生まれることもあったが、1.4東京ドームのメインでのベルト挑戦を表明したタイミングがブーイングが爆発したきっかけのように感じた。X(旧Twitter)で流れてくる動画越しでもこのブーイングは異様だと感じる中で、現場でそのブーイングを聞くことなく4.5両国まで来た自分がいた。

海野は1.4東京ドームでザック・セイバーJr.に敗れてもがき苦しみ、グレート-O-カーンに敗れ自分で髪を剃り上げて白ベースのコスチュームになり、スタイルを模索しながら新日本プロレスの春の祭典であるNEW JAPAN CUP(以下NJC)では準優勝で栄冠まであと一歩のところまで来た。

しかし、頂点には届かない。

そんな海野翔太に対して引退を控える棚橋弘至が両国国技館でのシングルマッチを申し込み、海野が受諾した。棚橋は引退ロードの中で「縁(えにし)」と「継(つなぐ)」という2つの戦いを続けている中で「継」と題されたカードが両国で組まれた。

棚橋弘至との熱戦ではブーイングもなかった

棚橋とのシングルマッチはこの日の第3試合で組まれた。棚橋といえば新日本プロレスがピンチの中でアントニオ猪木が掲げたストロングスタイルを愛する新日本プロレスの観客にブーイングを浴びながら愛を叫び続け、地方でのドサ回りもやり切って新日本プロレスを再び盛り上げた立役者であり、海野と同様にベビーフェイスにも関わらず新日本のリング上でブーイングを浴びた選手でもある。

だからこそ、このシングルマッチには意味があり、海野がヒールターンして棚橋と同じ道を歩むことを拒絶する試合になることも考えられたカードだった。しかし、そうはならない試合になった。

この日の大会の冠スポンサーである餓狼伝説 City of the Wolvesのキャラクターのコスプレをした上でコスプレイヤーと共に入場してきた棚橋に対して声援が飛ぶ。海野はスタイルチェンジをした白基調のコスチューム、坊主頭で入ってきた。

棚橋ほどではないが声援が飛ぶ。この日は両国国技館らしい枡席で観戦していたのだが、隣の枡席に座っていた海野Tシャツを着た男の子が立ち上がり、坊主になる前の海野人形を手に持って振りながら「しょうたー!」と叫んでいた。他にも子どもの声が飛びかう。海野は子どものヒーローであることを実感させられる時間でもあった。

子どもにもらったベルトをグレート-O-カーンに破られ、自分で坊主になり、足掻いている中でも応援してくれる子どもがいる。そんな中で棚橋弘至VS海野翔太のゴングが鳴る。

序盤は新日本プロレスの道場を感じるようなバックの取り合いから腕の取り合いを見せる。棚橋がコーナー駆け上がってのボディアタックを見せれば海野は分厚い背中を持つ体からエルボーを放つ。どちらの攻撃も見応えがあり、試合のボルテージは上がっていく。

海野がジャンピングキックからハーフネルソンスープレックスを連発で出していくと棚橋はツイスト・アンド・シャウトで海野の首をマットに打ちつけてからダルマ式ジャーマンで海野を投げ切る。ダルマ式ジャーマンは棚橋が新日本の最高峰のベルトを持っている時に頻繁に使っていた技であり、説得力もある技であることから力強く投げきった時にはこれで勝ってもおかしくないという雰囲気もあってカウントを数える声が大きくなっていた。

カウント2で返した海野に対して棚橋の代名詞であるスリング・ブレイドから立っている海野に対するハイフライフローが決まり、寝ている海野に対するハイフライフローが決まったら棚橋の完勝になる流れになった。海野がここでも敗れてしまうのかという中で間一髪でかわして決着を許さない。

ハイフライフローが自爆して座り込む棚橋に対して海野は後ろから、前から膝を叩き込んだ上で新しい必殺技であるSecond Chapterを狙うもここで棚橋が若かりし頃に勝利をもぎ取ってきた技である首固めで丸め込む。会場を沸かすも海野はカウント2で返す。

返した海野は走り込んできた棚橋に対してラリアットを叩きつける。このラリアットの迫力に驚かされた。スタイルチェンジした後に魅力的だと評判なのがこのラリアットで評判通りの説得力だった。繋ぎ技として使われることも多くなっているラリアットもこれを磨けばフィニッシュホールドになり得ると感じる力強さだった。右手と右足を同時に踏み込んで頭を前に倒しながらぶつけるラリアットのフォームはどこか革命戦士・長州力のリキラリアットを彷彿とさせるような技だった。

ラリアットに歓声が上がる中で棚橋を持ち上げた海野は再びSecond Chapterを狙い、決め切って棚橋から3カウントを奪う。ヒールであるWAR DOGSのデヴィッド・フィンレーから勧誘を受けていた海野がマイクを握ると新日本本隊は聖域であると宣言して(現場では聖域が聞き取りにくかった気もするが…)本隊で戦うことを事実上宣言して、リングを降りる。

足掻きながらもスタイルを進化させて戦う海野にはこの試合ではブーイングはなく、歓声が飛んでいた。海野がこれから本隊でどう戦っていくのかを期待する中でこの日の海野の登場はここまでだと思っていたがそうはならずにメインイベント後にもう一度登場することになる。

シカゴでのIWGP世界ヘビー挑戦へのブーイング

この日のメインイベントはNJCで海野に勝ったデヴィッド・フィンレーが後藤革命を継続しているIWGP世界ヘビー級王者の後藤洋央紀に挑戦するタイトルマッチだった。

少しベビーフェイス寄りになりつつあるファンレーは介入もなく、ハードコアな攻防もありながら攻めるも後藤が昇天・改からGTR3連発の必殺技フルコースで勝利してベルトを防衛する。フィンレーが勝った場合は前王者であるザック・セイバーJr.と4.11シカゴでタイトルマッチをする予定だったが、後藤が勝ったことで4.11のタイトルマッチの相手を指名することになる。

ここで指名されたのが海野翔太だった。

後藤が海野を指名した瞬間に両国国技館はなんとも言えないどよめきに包まれた。ブーイングされていることを知っているファンもいるだろうし、1.4で挑戦して敗れたばかりにも関わらず指名することへの違和感はあったのだろう。

そして、海野が出てきた。少しの戸惑いの次に生まれたのがブーイングだった。まだ、早いとヤジを飛ばす観客もいた。しかし、翔太コールも生まれてブーイングを打ち消そうとする声も上がる。

リングに上がってマイクを握り、話し出そうとする海野に対してブーイングも生まれ、海野が下がろうとするとブーイングが大きなうねりになることもなく、逆に声援も飛んで海野が試合への意気込みを話して後藤とのタイトルマッチへの期待が高まるやりとりをやりきった。

隣の海野ファンの男の子も勇気を振り絞って「しょうたー!」と叫んでいるのが印象的だったし、そんな子がいたからなのか、足掻いたことを感じたからなのかはわからないが自分も翔太コールを送っていた。

ブーイング。でも、潮目は変わりつつある

なぜ、翔太コールを送ったのか。隣にいた海野ファンの男の子に海野に対するブーイングが大勢だと思わせたくなかった気持ちもある。海野に対するブーイングになんとも言えない気持ち悪さを感じたこともある。スタイルチェンジをした海野翔太に対して期待をしたいと思った気持ちもある。いろんな気持ちが入り混じった上での翔太コールだったと思う。

海野翔太が新日本プロレスを背負うことができるレスラーになったと断言するところまでにはきていない。でも、少なくとも今の海野翔太に対してブーイングではなく声援を送りたい気持ちになったことには両国国技館での棚橋戦の戦いがあり、海野翔太を応援するファンを見ていてそんな真っ直ぐな気持ちを踏みにじりたくない気持ちがあった。

両国国技館の観客の中にもそんな気持ちになった人もいるのだろう。ブーイングではなく歓声を送りたいという気持ちを持った人が一定数いたからこそ翔太コールが生まれた。ブーイングはなくなってはいないけれど翔太コールも生まれた。少なくともブーイングに包まれた挑戦表明ではなかったからこそ潮目が変わりつつあると感じる自分がいる。

海野翔太に全賭けするわけではないけど紆余曲折の中で足掻いている姿を見たことで新日本プロレスの現場に行く中で応援したいと思う選手の中に入った。そんなことを思った両国国技館大会であり、感情を揺さぶられた海野翔太の姿だった。

後藤洋央紀とのタイトルマッチを明日に控えている状態で書いているので結果はわからないし、負けて倒れてまだまだ立ち上がることになるかもしれないけど、近い将来に海野翔太が新日本の頂点のベルトを巻く未来に期待したいし、期待しようと呼びかけたい。

餓狼伝説 City of the Wolves presents SAKURA GENESIS 2025 | 新日本プロレスリング株式会社

https://www.njpw.co.jp/tournament/result/550217

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小檜山 歩

コンサルタント日系総合コンサルティングファーム
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。
小檜山 歩
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。