現実は厳しい。いろんな理由があるにせよ他人を傷つけてしまったり、やむを得ず厳しい環境に置かれることがある。そんな厳しい環境の中でも意思を持って生きる人の中には優しさだったり強さが生まれる。人を厳しい状況に置くのも人であり、優しさを持っているのも人であるという二面性が2つの物語で描かれている。
『家族のそれから』
一つ目は片親だった母親を亡くした高校生の男子と中学生の女子のもとに周りの反対を押し切って結婚したという26歳の優しい涙もろい義理の父親がやってくるという話。大切な母親を亡くした兄妹はお母さんが寂しいという現実もありつつ、お金も含めてこれからどうしていけばいいのかを考えさせられてしまう。義理の父親はとっても好きだった奥さんとの結婚生活が1か月しかなかったこともあってメソメソと泣くこともしばしば。
悪い人ではないことは分かっているのだけどお母さんの亡くなったことも、義理の父親が一緒に住んでいるということもどうしたらいいのかわからない複雑な気持ちになる。お金をどうすればいいのかわからない中で亡くした母親の生命保険のお金は出てきた時もこのお金を使うことはできないかもしれないと悩む現実がある。そんな現実の中で、悩んでいる兄妹の間でも義理の父親との間でも対話を少しずつすることで「家族のそれから」に向かって動き始めようとする。漫画のヒーローのように元気百倍とはならないけど、人の強さと弱さを感じることができる。
『ゆくところ』
もう一つは『ゆくところ』という作品で、ゲイでイケメンの高校生が小児麻痺で左半身が動かない同級生のストレートの同級生に対して思いをぶつける日常を描いている。物語の最初では底抜けの明るさを持っていると思っていた主人公の男性の裏にある家庭の状況と並んで描かれていて昔書いた作品ということもあって手が不安定な事も相まって主人公の心の不安定さを描いているように読めてくる。
最初の頃はよく喋っていた主人公よりも同級生の方の心の動きに自分を投影していくのが不思議な気分になる。後半では心の世界のような描写もあってドキドキさせられるような雰囲気を持っている。
ずっと読み続けている『おおきく振りかぶって』という野球漫画の作者の昔の漫画ということで読んでみたんだけど思っていたよりも人の心を丁寧に描いていた。確かに『おお振り』もいわゆる得意技野球漫画であったり能力の高い主人公がバッタバッタと敵を倒していく話ではなくて、できる限りの高校生のリアルの中にある野球を描いている原点がこの作品にもあると感じさせた作品だった。
【手に入れたきっかけ】
『おおきく振りかぶって』の作者のマンガということで気になって
【オススメ度】
★★★★☆
小檜山 歩
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