大量の死の中で何が残るのか。
希望のない中で残された者が懸命に生きた記録が詰まっている。日本人に意味のある記号となった「3.11」、東日本大震災に関するルポルタージュ。
地震と津波によって大混乱に陥り、予期せず大量の死と向かわざるを得なかった人たちの姿が描かれている。列をなして遺体が行進してきたと形容される状況の中で自分が生まれ育った街が地震や津波によって被害を受けた元葬儀屋の民生委員、歯科医師、お坊さんなどが出来ることをやっている。
人が死んでも、遺体になったとしても遺体自体には歯型も含めてその人が生きてきた記録が含まれていることが細かく、えげつなく(モノのように描かれることもある)文章になっている遺体の様子から伝わってくる。
列をなして遺体が歩いてくることに対する混乱、やるせなさ、悲しさ、悔しさを押し殺して、押し殺せなそうになったり、押し殺せなくなっても残された者たちが行った行動からは何かを感じざるを得ない。
やるべき事を迷いながらやり続けた人たちの姿
それぞれがやることを懸命にやり続けたというと被災の中のヒーロー物語かと思われるかもしれないけど、そんなことはない。
地方都市ならではの協力関係の中で知っている人の遺体と向き合う厳しさや終わりの見えない状況の中で消耗し、やめたくなる人間の弱さも確かに描かれる。そんな中でも何かをしない訳にはいかないと行動する姿に人間の本当の強さを感じることが出来るはず。
来年で5年経つ3.11だけじゃなくて、人が死ぬことについて
この『遺体』という作品は3.11の危機の中で懸命に行動し続けた人たちから何かを感じるだけでなく、人が死んだ後に残る”遺体”という”もの”にはいろんなものが残る事実から自分が人の死、遺体とどう向き合うのかを考えるきっかけにもなる。
来年で5年になるけど、時間がある時に読んで3.11だけでなく、死ぬことと遺体について一時の間、考えてみてはいかがでしょうか。
【手に入れたきっかけ】
終わってしまい「荻上チキ・Session-22」に変わったTBSラジオの「ニュース探究ラジオ Dig」(多分)で紹介されていて購入!
【オススメ度】
★★★★★
小檜山 歩
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