メモリアルだからこそのプロレスの楽しさと素晴らしさが詰まっていた大会「木村花メモリアルマッチ「またね。」2021年5月23日@後楽園ホール」

小檜山歩

3年前

こんな大会があるからこそプロレスは嬉しいし楽しいのだと改めて感じさせるような大会だった。自ら命を絶った木村花選手のメモリアルマッチが後楽園ホールで開催された。

行きたいと思っていたけど発売と同時にチケットは売り切れ、どうしようかなと思っている中で配信がされるということを知った。他の予定を入れるかどうか迷ったのだけど、見たいと思っていたけど一度も見ることが出来なかった木村花選手の雰囲気を一度でいいから味わいたいということもあって家の事をやりつつ配信で見ることにした。

一人ひとりの人間は優しいのかもしれないけど、想像力を失うことで手軽に相手を傷つけてしまう。

コロナになってから少し遠のいていたプロレス観戦も少しずつ行くことができるようになっていたが緊急事態宣言の再度の発令に伴っていくつか中止となってしまった。そんな中で改めてプロレスはいいなと思わせる大会が今回のメモリアルマッチだった。

木村花の力で起こり得ないことが起こった大会だった

これがプロレスの力なのかもしれないけど、いつものプロレスにはない空間があった。大会前から発表されていた花月選手の1年ぶりで1日限りのプロレス復帰は期待通りのメインイベントへの参加でそれだけでも驚かされたことに加えて、花月選手と一緒に入ってきたのは同じく引退していた葉月選手。スターダムに対する不満を引退試合のスターダムのリング上でぶちまけた上で引退をした経緯もあり、参加は難しいのではないかと思われていた中で復帰をしてくれた。

プロレスラーは引退したあとに簡単に復帰しすぎると言われてしまうこともある。でも、特別な場であればやっぱりいいんじゃないかと改めて思わせてくれた。バトルロイヤルにあっさり宮本裕向選手・芦野祥太郎選手が出てくることもすごいと思いつつ、葛西純選手、田中将斗選手、新崎人生選手が入場曲付きで女子プロレスの選手のメモリアルマッチで出てくることのすごさを感じざるを得ない。

木村花さんの大会であれば細かいことは置いて出て気持ちを表そうとするそれぞれの気持ちが伝わってくる大会だった。

引退した選手が2試合

現役バリバリの中で引退した葉月選手と花月選手はこの試合のためだけに体を仕上げてきた。バトルロイヤルであっさり済ませることができたのかもしれないけど、メインイベントで今、バリバリ戦っている選手に対してぶつかっていく姿はとんでもなかった。トペ・スイシーダの共演もあり、勝負を仕掛けた葉月・ストラルを途中で止められてフォール負けをしてしまったけど、渡辺桃選手の白いベルトに挑戦した時の葉月選手を思い出すような試合だった。

それだけでも驚きだったのに物語は続く。朱崇花選手に時間無制限を求められた花月選手は一般人であることを繰り返し返しながらもシングルマッチに挑むことになる。3連発のトペ・スイシーダや大江戸コースターまで繰り出した花月選手はかっこよかった。それを引き出した朱崇花選手もたまらなかったのだけど。

人生初女子プロレス観戦。スターダムは”ちょっと昔からのプロレスファン”にも刺さる要素あり！「スターダム 2018年7月16日@後楽園ホール BRIGHT SUMMER STARDOMvsRISE日米交流戦」

無念がありつつもそれぞれ生きていく先の「またね」

現役バリバリ、むしろこれからのタイミングで自ら命を経ってしまった木村花選手だからこその大会だった。小学生の頃に幼馴染のお父さんが亡くなって盛大なお葬式があったときに「お葬式が盛大であっても早すぎる」と周りの人が言っていたことを思い出した。

大きなインパクトを残して新しいつながりを生み出してくれた大会ではあったけど、自ら命を断ってしまうことがなければ木村花という選手は今でも女子プロレスの中で活躍していたのだと思う残念さが大きい。

木村花さんの人生を振り返るVTRの途中から涙が止まらず、TAJIRI選手がこの人生で会っている人には前の人生でも次の人生でも何かしらの関わりを持つことになるということを話し、だからこその「またね」だと語りかけた上で様々な選手が「またね」と言うビデオでエンディングが閉まる。新崎人生選手やケニー・オメガ選手、武藤敬司選手などのビックネームもありつつ、最後はスターダムで深く変わっていた選手たちが出てきた。一旦の区切りになった大会だった。悔しいながらもこれからもプロレスとそれぞれの人生は続いていくのだと信じたくなった大会だった。