頭のなかで登場人物、それぞれのシーンを想像して楽しむ小説の魅力を消す可能性もある試みは逆に物語への没入感を深めてくれている。
大泉洋をあてがきした速水輝也という雑誌編集者を主人公に何年も前から厳しい時代の出版業界を描いている。
大泉洋(速水輝也)の物語
大泉洋という自分が知っている俳優だと思って速水輝也の物語を読んでいるとなぜか誰かをあてがきしたわけでもない他の登場人物が他の小説を読んでいる時よりも生き生きと動き出す。ドラマのシーンを想像して鮮明になったのかもしれない。
でも、それは自分の小説を読む力が落ちていることの裏返しなのかもしれないとちょっと心配だったりする。本を読む力が落ちていることはこの物語で言われる“本離れ”ともつながっている。
とある連れからもらって読んだ本で前半の会社のドロドロ、編集者のドブ板な感じとかはベンチャーからコンサルに転職して働いている自分にはそこまで身近ではないものであり、これからも触れたくなかったりするのであんまり読んでいて引き込まれはしなかった。でも、ザ・日本企業で働いている連れからするとそうだよなぁと思うらしい、
私にとっては後半のそこそこスリリングな展開と印象に残る文章がこの本を印象に残るものにした理由だと思う。スリリングな展開はぜひ読んでほしい。
ここに大泉洋をあてがきしたことの魅力があってとてつもなく大きな事件があるわけじゃないんだけど、臨場感を感じて読むことができた。
印象的な文章
印象的な文章をそれぞれのテーマで紹介する。
・仕事
仕事でストレスが生まれるのは多忙であるか否かが原因ではない。報われるか否かの問題である。
・恋愛
「男の恋愛は、名前を付けて保存」などという言葉があるが、速水には戯れ言だった
・本
本好きには優しい人が多い
・時代
そんな、タダで遊べるようなくだらないゲームに貴重な時間を使って…。みんな本当に何も考えてないんでしょうね。
・子育て
親は子どもを育てられて当然ではない。一人の人間をこの世に生み、育て上げるにはたくさんの壁を超えなければならない
・思考
思考を続ける人間には、真贋を見極める目が備わっている。本物を、上質を選ぶ慧眼を身につけることが、情報の波にさらわれない唯一の対抗策だと小山内は信じる
当たり前というか突飛なことじゃないんだけど、それぞれ改めてそうだなぁと思うことなんですよね。
大泉洋のもう1つの人生
改めてこの小説は大泉洋という人間のもう1つの人生のよう。
こんな編集者はいそうだし、大泉洋が今の時代にもてはやされる理由がタイトルでもある”だまし絵の牙”によるものなのかもしれない。
自分の身の回りにも1人ぐらい”だまし絵の牙”を持っているような人がいるのではないか。
あ、“だまし絵の牙”がなにかはぜひ、読んでください。
【手に入れたきっかけ】
連れから勧められてもらったので読んでみた!
【オススメ度】
★★★★☆
小檜山 歩
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