こんな第1試合はたまらない。久しぶりに心の底からそう感じた試合だった。少し前の試合になるが、2025年5月20日、マーベラス新木場大会の幕開けを飾ったのは、シングルマッチ、青木いつ希対アミラの一戦。この試合がすごかったので紹介させていただきたい。
この日の大会、メインイベントは彩羽匠とSareeeがタッグを結成し、加藤園子と水波綾(H2D)が持つAAAWタッグ王座に挑戦するという豪華なカード。それに加え、爽やかだったマゼンタが突如眉毛を全剃りし、黒い風貌に変貌を遂げたことも気になり、私は現地観戦を決めていた。もちろん、それぞれの試合に見るべき点は多かった。しかし、それらと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、帰り道で「来てよかった」と強く思ったのが、青木いつ希とアミラの第1試合だったのだ。
第1試合の重要性はよく語られる
私もプロレスファンになって久しいが、第1試合の重要性については、様々な場面で耳にしてきた。
日常から会場に足を運んだ観客を、一気にプロレスの世界に引き込むための盛り上げ役。初めてプロレス観戦する人が、最初に「プロレス」というものを肌で感じる試合。そして、選手たちにとっても、その日の観客の熱気を感じ取り、自身のテンションを高めるための時間。そういった意味で、第2試合や第3試合よりも、むしろキャリアのある選手が務めることも少なくない。
そんな重要な第1試合に、この日組まれたのは、マーベラス所属ではなく、最近はスターダムにも参戦するようになった青木いつ希と、PNWという海外団体所属でマーベラスに参戦しているアミラの、15分1本勝負のシングルマッチだった。
この日は仕事が長引き、新木場1st Ringに到着したのは開場ギリギリ。席に着いてから5分も経たずに大会が始まった。早めに会場入りしてテンションを高める時間もなかったのだが、そんな中で、一瞬にして試合に引き込まれたのは、二人のプロレスラーが繰り出す、洗練されたシンプルな技の数々だった。
とりあえず座って見始めた中で一気に引き込んだ技
二人がそれぞれ入場し、相手をしっかりと見据えた上で握手を交わしてから、試合開始のゴングが鳴る。第1試合でよく見られるグラウンドでの攻防。アミラが上から押さえ込もうとするも、青木は巧みに腕を取り、バックに回り込んでアミラを締め上げる。流れるような動きの中にも、互いに牽制し合っているような、ピリピリとした緊張感が漂い、観客を一気にプロレスの世界へと引き込んでいく。
グラウンドの攻防から立ち上がり、互いの肉体がぶつかり合うと、ここで一気に戦いの鮮度が増していく。アミラがロープに走ってスピードを上げ、青木にショルダータックルを叩き込むと、「パチン!」という大きな音が会場に響き渡った。
アミラの方が青木よりも身長が高いのだが、青木はアミラの攻撃をしっかりと受け止め、気合いのこもった良い表情を見せながら、何度もそれを受け止める。倒れた方が楽なのではないかと感じるほどの重みと速さのあるショルダータックルを受け止めた青木は、反撃に転じようとラリアットを狙うも、アミラがこれをかわし、再びショルダータックル。ついに青木が倒れる。
倒れた青木は、アミラの力を感じ取っているのか、次を伺うような表情を見せる。そして仕掛けたのはエルボー。鍛えられた腕をアミラに叩きつけると、「ドスン」という大きな音が鳴る。効いたかと思わせた次の瞬間、アミラが動き出し、長い腕を青木の胸に打ちつけると、「パチン」という音が鳴り、そこからエルボー合戦となる。
エルボー合戦は、時に力が抜け、形だけのものになることもあるが、この二人のエルボーは違った。一発一発に気合いを込め、互いに放つエルボーには、確かな力がこもっており、見ているこちらが思わず「おお!」と声が出てしまうほどの迫力だった。
エルボーで主導権を握った青木は、串刺しバックエルボーからフェイスクラッシャー、そして叫びながらのランニングボディプレスへと畳み掛ける。3カウントを許さないアミラを、青木が持ち上げようとするも、アミラがこれに耐えると、コーナーに青木を座らせ、そこからキャノンボールで突き刺さっていくという、迫力満点の攻撃を見せる。
このフォールを青木が返すと、攻撃で疲れたのか、アミラが肩で息をする中で、青木が再び振り切るエルボーを放つ。ドスンという音が鳴り響く。アミラの攻撃を避けての振り向きざまのラリアット、アミラの最後の力を振り絞ったラリアットをガードしてからの渾身のラリアット。最後は青木がアミラから3カウントを奪い取った。
グラウンドの攻防から始まり、ショルダータックル、エルボー、ラリアット。どの技もシンプルながらも、プロレスラーにしか出せない力強さを感じる攻防。これぞプロレスのど真ん中、と言えるような第1試合だった。
青木いつ希選手の魅力
試合後、どんな話をしたのかはわからないが、マーベラスの創設者である長与千種が、青木いつ希に対して指でグッドサインを送ったのに対し、青木が握手をしていたのが印象的だった。
身長はそれほど大きくはないが、鍛えられた体の厚みを活かした重量感のある攻撃を持つ青木いつ希の魅力が、たっぷりと詰まった第1試合。そして、その試合を生み出したアミラもまた、日本の団体で好まれるタイプの選手なのだろうと感じさせる試合だった。
青木は、試合前から低い声で大きな声を出し、会場を盛り上げる、元気のある選手なのだが、その表情に見え隠れする、どこかダークな雰囲気が私は好きで、彼女が出場する大会は、カードが発表されると嬉しくなる。
大会の中でも、自分の試合以外で、所属選手と同じか、それ以上にセコンド業務をしっかりとやっているのが印象的で、所属選手の少ない団体が多い女子プロレスの大会には、欠かせない選手なのだろうと感じる。
鈴季すずが新しく作ったユニット、Mi Vida Locaのメンバーとして、日本の女子プロレス最大手のスターダムに上がり始めたことで、さらにブレイクするのではないかと感じるとともに、努力で積み上げた力と技で、マーベラスやSEAdLINNNG、WAVEの頂点のシングル王座を手に入れる未来を期待したい。
小檜山 歩
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