私たちがいろんなメディアを通して見ているのはハサミの片方の刃のみかもしれない。それで被災地を理解した気になるのは許されるのか。「復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録」

小檜山歩

13年前

P98 鉄道の復興は八月に完成した（もっともまだ列車が通過する地下鉄の駅がある）。鉄道の復興とビルの取り壊しとは、ほぼ完了したかにみえる。しかし、大阪に向かう道路の復興はまだである。権利関係の入り組んでいる三宮にはなお異臭が漂う瓦礫の山があちこちにある。

1995年10月に書かれた文章。そして、2008年、7月。私が初めて行った三宮はモノレールが上を走る街。ここがそんな風になっていたとは。悪臭が漂う瓦礫の山があちこちにあったようには思えない。その三宮のエクセルシオールカフェである大会の開始時刻まで時間をつぶしたことを思い出す。
本のタイトル通り、東日本大震災の話ではない。1995年1月17日に起こった阪神大震災の際に現地に入り、活動を行った精神科医の方の阪神大震災に関する文章とそれにいくつか追加したもの。東日本大震災についても触れられているが、ほんの少しだし、東日本大震災に関する筆者の視線はほとんど私たちと同じ。現地に入っていないことがうかがえることからも。阪神淡路大震災から1年の記録。東日本大震災が今までも辿り、これから辿る道を先に精神科医として、医療、そして、人の心に触れながら体験した筆者の話。筆者が「違う点ならいくらでも挙げられる」（P161）とする通り、阪神淡路大震災と東日本大震災は異なるもの。でも、同じ箇所があるかもしれない。それを読んで学び、生かせるかもしれない。
休養について、ゆっくり休まないとマズイこと、死ぬ可能性があることや「被災地の大学病院精神科責任者の仕事」（P41）、「災害時の精神科医の仕事」（P54）というのはそれぞれ長いページを割かれて書かれていて、実務者にはとても参考になる内容だと思う。災害前のマニュアルとして読んでおくべきかもしれない。
周縁部について注目した。

P27　周辺部のまだら被災では共同体感情は起こりにくいかもしれない。周囲からの関心も薄く救援も少ない。関東大震災の悪名高い朝鮮人虐殺も、ほんとうの被災地よりも家屋の倒壊の少ない周辺部に目立った事件ではなかろうか。中心部にあるのは端的な恐怖と悲嘆であるが、周辺部にはまず不安があり、疑心暗鬼が発生しやすい土壌がある。中心部と同じように災害の周辺部にも光をあてる必要があるだろう。

ということ。被災地にもいろいろある。今回の震災、原発のフクシマ、津波の宮城は比較的ずっと注目され続けている。都心部も被害を受けた。注目されやすい。でも、その都心部とフクシマ、宮城の間には大きく穴が開いているのかもしれない。茨城などがその代表として挙げられる。その空白地帯に目を向けることの大切さを覚えていく必要性。そして、

P80　一般に災害は人をハサミ状に二方向に分けるようだ。酒だけではない。異様に明るく、活動してやまなかった人が目立ったが、目立たないだけで、じっと座り込んで食事もとらない人も少なくなかった。精神科の病いも、軽くなった人が目立つが重くなった人もいるに違いない。身辺でも睡眠薬の常用者で薬がなしで眠れるようになった人があれば、以前の薬では効かなくなったという人もいる。柔軟になって超法規的に行動するようになった行政マンもおれば、考えられないほど石頭になった人もいた。

とある。2つの方向、私たちがいろんなメディアを通して見ているのはハサミの片方の刃のみかもしれない。それで被災地を理解した気になるのは許されるのか。地域でも人の間でも中心のみがクローズアップされている。それで、知った気になっている自分を戒める。生身の人間が一人一人生きている。そんなことを思った。
東日本大震災に乗ってとりあえず出した感が否めないのが残念。どうせなら、3,11について、もっと語って欲しかった。3,11後に出すのであれば。でも、現地で働く人の参考になると思う。４に近いけど、☆3つ。

復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録

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