P iv 民族・エスニシティ問題は、一方では冷静(もしくは冷酷)な打算に基づく合理的な選択の対象となったり、「道具」的に捉えられる面もあるが、他方では、合理的計算では割り切れない「どろどろした」感情が幅広く動員される。政治家が打算的思惑に基づいて民族主義感情を動員することは珍しくないが、その結果として、当初予期されていた規模を超える自己運動現象が起きて、歯止めが利かなくなることも珍しくない。この場合、当初は打算に基づいてナショナリズム感情を利用しようとした政治家は、昔話に出てくる「魔法使いの弟子」(魔法を修行中の弟子が、自分の呼び出した魔法の箒を止められなくなる話)のような立場におかれることになる。
としている筆者がいろんな事例を引き合いに出すことで民族や国を通して読み解いている。新書には、その分野に全く興味がない人でもすんなり入っていけるものと、少し勉強している人でないと難しい物に分けられるが、岩波新書ということもあり、これは間違いなく後者である。単語や文体がかなり学術的な書き方をしている上、内容も専門的な箇所がある。まあ、大学の授業でオススメされ、レポートの参考に読んでいるので仕方ない。
その中で、歴史認識のエスカレーションについて、
P177 歴史論争は往々にして堅実な歴史研究を離れた政治論となり、しかも他者に対する非合理的な怨念をぶつける―そしてそのことが、ぶつけられた側の硬直的反撥を招き、対立がいっそうエスカレートする。
としているのは興味深いし、歴史の重みを再確認する。その上で、最初に書いた「魔法使いの弟子」にならないための初期対応の重要性を強調して終わる。でも、初期対応が重要なら、今ある歴史問題の大部分についての解決策はないに等しいし、問題はなくならないことになる。この今ある歴史問題について十分述べられているとは言えないのが残念。
でも、民族やナショナリズムのケーススタディや、それぞれの民族を学ぶ際の一つの切り口からの入門書としての価値がある。☆3つ。
思うことがあったり、良いと思ったり、反論があったり、おかしいと思うことがあったり、言いたいことがあったり、
同意があったりしたら反応をして頂けると幸いです。なるべくというより出来る限り私も反応します。
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小檜山 歩
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