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『狡猾の人』防衛産業の闇が垣間見えた山田洋行事件を「防衛省の天皇」・守屋武昌という普通の官僚に注目して記していくノンフィクション。普通の人間が悪人になる過程も見える。『狡猾の人』

(ネットの献本サービスで頂いた一冊です)
【ポイント】
1、防衛産業の闇が垣間見えた山田洋行事件を「防衛省の天皇」・守屋武昌という普通の官僚に注目して記していくノンフィクション
2,守屋のわがままによって物足りない部分が生まれてしまった1冊
3,凡人であっても環境によって悪人になってしまう可能性が感じられる

この本は内容が物足りなかったとしても、著者だけの責任ではありません。一人の狡猾な官僚にも責任がある。そんな本です。
守屋武昌という名前を覚えているだろうか。「防衛省の天皇」、山田洋行というキーワードが有名かもしれない。2007年に当時の防衛大臣の小池百合子氏との対立が話題になり、10月に山田洋行からのゴルフ接待などの見返りに兵器調達で便宜を図ったとして逮捕され、最終的に懲役2年6ヶ月の実刑判決によって現在刑務所でしゃがんでいる元防衛省のキャリア官僚である。現役時代は防衛省の官僚としてトップの地位である防衛事務次官にまで登りつめている。
守屋氏の一連の事件について、ノンフィクションライターの著者が本人への取材も含めて書き上げたのがこの1冊であり、山田洋行事件について、守屋氏のバックグラウンドから、どのようにしてこの汚職事件が発生したのか、そして、まだ、語りが不十分な問題は無いのか、ということまで追いかけていきます。防衛省の武器取引について、かなり事細かに記されており、内部を知るための資料としても有用です。
閑話休題。なぜ、この本が物足りなかったら、それは著者だけのせいでなく、1人の狡猾な官僚のせいでもあるのか。もちろん、ここで記している狡猾な官僚とは守屋武昌、その人を指しているのだが、それには2つの理由がある。
1つ目に、自己保身で本の内容を変えさせたということである。元々、この本は『懺悔』という題名で、守屋氏が書いたものとして、出版される予定だった。内容は守屋へのインタビューを元に山田洋行事件を明らかにしていくもので、文字通り“懺悔”するための本だった。しかし、裁判が進んでいく中で、弁護士や娘の意見で本の出版を白紙に戻した過程が本の最初に書かれている。読んでいくと、本人の許諾がないから、残すことが出来なかったと推測できる箇所がある。120ページに渡る獄中日記もその1つで、それが抜けたことで物足りなくなったと考えられる部分もある。それが1つ目の理由。
2つ目の理由は守屋武昌という人間が普通だったこと。「防衛省の天皇」とまで呼ばれた人間なのだから、物凄い強権を発し、やりたい放題していたのではないか、と推測されるだろう。しかし、読んでいくと事実はそれとは大きく異なるということが浮かび上がってくる。不倫もし、長男の反抗期は抑えられないという家ではうだつの上がらない、交渉においても、自分の力ではどうしようもなくなる状況まで追い詰められていたというような記述、著者の「政治に対峙する覚悟もなければ防衛省のあり方を変えようとする気概も感じられない」(P102)、「これで1国の防衛をあずかってきた官僚トップだっただろうか」(P12)といった言葉からも分かるように、凡庸なただの人間だったのである。これが物凄いドラマを期待する読者を裏切るかもしれない2つ目の理由である。
この2つ目の点は、ある歴史上の人物を思い出した。ナチスドイツで600万人ものユダヤ人の大虐殺を実行面でまとめたとされるアドルフ・アイヒマンである。そこまでのことをしながら、裁判でアイヒマンを見た人はとんでも悪人を想像していたにも関わらず、目の前に現れた人間が小役人的な凡人だったという事実に驚いたのである。アイヒマンの例は守屋にも通じるものがあり、“普通”と思われる人であっても、とんでもない事を起こす可能性がある、つまり、全ての人が守屋のようにも、アイヒマンのようにもなる可能性があると、ただの人間である守屋の描写から考えさせられるのである。その点でも価値を見いだせる。
また、緻密な取材によって防衛省や防衛産業、防衛族の政治家、官庁間のいざこざなど、注目されない防衛の世界について山田洋行事件を通して細かく着実に描いた本としても価値は大きい。☆4つ。
自分なりタイトルは『防衛闇世界の凡役人―防衛省の天皇と呼ばれた守屋武昌と山田洋行事件』です。
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小檜山 歩

コンサルタント日系総合コンサルティングファーム
渋谷のITベンチャー→日系人事コンサル。会社ではコンサルしながらCSRの活動もしてます。いろいろ無秩序につぶやきます。2017年5月から1年間タイでトレーニーとして働いてました。今は帰ってきて日本で働いてます。