唯一の定期購読雑誌のクーリエ・ジャポン7月号。今回の特集は「池上彰 責任編集 危機の時代を生きるための新しい「エネルギーの常識」」責任編集の復活は嫌じゃない。むしろ、良いことなんじゃないかな。でも、この物足りなさはなんだろう。「ふーん。」なんだよな。「ほ~」という記事をクーリエには求めている。目次を開くと2つ目に大きな特集が「ここまで進化した世界の「エリート教育」」。なんか、最近のクーリエに多い記事。あんまり好きじゃない。大切なこと。だけど、「エリート教育」ではなく、世界の特色ある教育に注目した方がクーリエっぽいんじゃないか。
P24の核施設へのサイバー攻撃の恐ろしさは小説のような危険な話。核兵器の暴走はありえると感じた記事。やっぱり、核廃絶は必要なのか。P64~67のビン・ラディン殺害を受けたアメリカのある見方と、中東の2つの見方は興味深い。もっと多くの見方を取り上げてほしかったけど。
世界から見たNIPPONの2つの記事、「「チェルノブイリより恐ろしい・・・」旧ソ連出身の科学者が語る“フクシマ”」とニューヨークタイムズの日本の「原子力村」についての記事は日本で書かれるべき内容なのにな。と少し残念になってしまう。
ソ連の科学者は
P101 福島の事故について真実が語られるのも、チェルノブイリと同様に、25年も待たなければならないのだろうか?
日本人は自分のミスを認めることを是としない。彼らはいまも多くのことを隠している。チェルノブイリでは、事故発生から1カ月後には放射線量の総量が明らかになっていた。このときは放射性物質のほとんどがエアロゾルとなって大気中に放出されたが、日本では大気よりも、水と土壌の汚染が深刻だ。放出量が何キュリー(1キュリーは370億ベクレル)に上るのか、専門家は分かっているはずだが、伝えられていない。福島の事故の真実が完全に明かされることは、おそらくないだろう。
P101 この世には「絶対的に安全な原子炉」など存在しない。「多少は安全」なものでしかないのだ。
と安全神話と日本人の隠ぺいを切って捨て、ニューヨークタイムズは「原子力村」について
P102 「原子力村」は日本の村社会と似ていて、政・産・官・学から同じ思考をする人々が集まっており、建設事業や高級の仕事先を融通しあい、それを政治、経済、規制の面からサポートしていく互恵の仕組みになっている。原子力の安全性に懸念を表明する人は村八分になり、出世ができなくなったり、助成を受けることができなくなったりした。
P103 日本では、電子力分野の研究費は、政府か原子力関連企業に由来する。原子力の安全性に懸念を表明した研究者は、研究をすることもままならず、京都大学の「6人組」は数十年間、助教レベルの地位にとどまることになった。原子炉の専門家で、京都大学で37年間、助教を務めている小出裕章は、若い頃に研究費を申請したこともあったが、得られなかったと語る。
としているが、はっきりと批判をしない。たんたんと語り、読み手に判断を仰いでいる。まあ、批判であることには間違いないが。極めつけは森巣博のコラム。フランスのNGO組織CRIIRADの信憑性の高い調査で
P106 3月15日福島県内の放射性物質飛散量が、基準値の1000倍に達した、とその測定値を国際配信した途端、日本の大手メディアはCRIIRADの発表を無視するようになった。
ことを批判し、チャールズ・ダーウィンの
P107 「勇気を持って、事実を見る」
を引用する。原発を囲んでいるおいしいものについて皮肉バリバリ。これだけ、原子力について書いているクーリエがおかしいのか、ほとんど詳しく取り上げられない日常がおかしいのか、考え込んでしまう。
一番気になったものは
P84 2009年、米国の陸軍士官学校ウェストポイントで、イェール大学の元教授ウィリアム・デレズヴィッツが、「孤独とリーダーシップ」という題の新入生向けの講演
の一つの箇所。「孤独」の大切さを話している場面。悩みについて、
P88 疑いや問いを抱くのはもちろん、悩みを抱えるのは自然なことです。問題は、それをどうするかということです。抑え込みますか?他のことに逃げますか?なかったことにしますか?それとも真っすぐ、正直に、勇気を持って向き合いますか?
と問いかけ、
P88 答えは、自分のなかにしかありません。邪魔や圧力のない、「孤独」のなかでこそ見つけられるものなのです
と断定し、メディアを利用すると
P88 人は常に流れ込んでくる他人の考えに晒されることになります。一般的な見解、つまり自分のではない、他人の現実に、自ら浸かっているのです。これでは雑音を立てて、自分の心の声を掻き消しているのと変わりません。
とし、
P88 書き手の「孤独」の成果
である本を読むことを勧めている。この「他人の現実に、自ら浸かっている」ことの批判は、現代より受け止めないといけない警告。
今月号で最も目を皿のようにして見たページはP77-78「実写版ウォーリーを探せ」。3つの写真から3人のウォーリーを見つけた。こういう楽しさはクーリエらしさで好き。☆4つ。
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小檜山 歩
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